「頬の涙を飲み干してやるぜ」(『飛んで火に入る夏の令嬢』)「銀河超えて会いに来たぜ」(『挑発∞』)などの「〜ぜ」と偉そうに大風呂敷を広げた恋の表現が続々。これを3人が、ストレッチを思いきり頑張ってみましたという感じのダンスで、オラオラと踊り歌う。その姿そのものが、「イキがっている不器用な思春期」を彷彿とさせ、最高にエモいのである。
「抱きたい系表現」の宝庫
「授業中に手をあげて俺を好きだってもし言えたら抱いてやるぜ」(『NAI・NAI 16』)「君とキッスできたら俺 街中を逆立ちしたままLOVE LOVE I LOVE YOU 叫んでもいいぜ」(『100%…SOかもね!』)。
落ち着け。そうポンポンと肩を叩きたくなるほどの歌の主人公。このハイテンションな妄想や行動こそが、アオハルそのものではないか。
抱いてやるぜ抱いてくれよ抱かれてみろよと、「抱きたい系表現」がガンガンに入っているのもシブがき楽曲の大きな特徴。夜、あらゆる恋愛指南本や雑誌を読み漁り、枕を抱きしめつつ「明日こそアイツに告白して、あわよくば抱くとこまでいってやるぜ!」と鼻息荒く決意するも、いざとなると目すら合わせられず、下を向き「お、オッス……」と言うのが精一杯。
もしくはギリギリで邪魔が入り、校庭の隅で「いいとこまで行ったのに!」と泣きながら雑草を蹴る。もしくは抱きしめるまで事が運んだはいいが「上手くいき過ぎて怖い!」とパニクって逃げる。ああ、そんなバカで愛しい学ランボーイが、聴いているだけでありありと目に浮かぶ!
中年層の方は改めて聴くと、若かりし恋を思い出し「カーッ、恥ずかしかったなあ、10代の俺!」と叫びたくなるかもしれない。
言葉の匠による「神々の遊び」がすごい
シブがき楽曲の世界観を弾けさせた仕掛け人は、森雪之丞、三浦徳子、売野雅勇、秋元康といった言葉の匠たちだ。特にデビュー曲『NAI・NAI 16』から関わっている森雪之丞の爆発力はすごい。『Zokkon命』『男意ッ気』『飛んで火に入る夏の令嬢』など死語やダジャレをぶち込んだ、言葉遊びの洪水! シブがき隊というアクの強い素材を前にし、「どうせなら未知のスパイスを入れてみよう」と調理した結果、絶品の珍味が出来たというイメージだ。
曲先行で歌詞をつけることが9割という森らしい、井上大輔や水谷公生などによる粋なメロディーを、引っ張り上げるような絶妙なワードのハマり方。かなり後になり、布袋寅泰の『バンビーナ』の作詞も彼だと知り「さすが!」と唸ったのを覚えている。
彼が自身の作詞法について記した著書『歌詞カードに火をつけろ!』(シンコーミュージック)にも『NAI・NAI 16』について「掟破りの作品第一号」と書かれており、森にとっても大きな手応えを感じた作品だったことが窺える。
とにもかくにも「思春期の妄想ってのはこんなもんだい!」と奇才達が創造の翼を広げ紡ぎ出した歌詞に、ものすごくオシャレで粋なメロディラインが絡み合う。ベスト盤は、仕掛けが盛りだくさんの絶叫遊園地のような聴きごたえである。