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「トムと僕は、ほぼ同じ時期にこの企画にやってきた。トムは品位とヒューマニティ、威厳を感じさせる俳優で、この役には完璧。僕らは前にも組んでいるから、意思疎通もスムーズだ。ヘレナは『System Crasher』というドイツの映画に出ているのを見て知った。実際に会って、1日一緒に仕事をしてみたら、本当にすごかったんだよ。彼女はこの役のためにネイティブ・アメリカンの言語も学んでくれている。本当に一生懸命やってくれた」。

 

過去が詳しく語られない理由

 キッドは南北戦争を戦った元兵士。ジョハンナは、ドイツからの移民なのになぜか家族と離れ、ネイティブ・アメリカンに育てられることになった過去がある。しかし、そこは映画であまり詳しく語られない。フラッシュバックなどのやり方はあったはずだが、グリーングラスはあえてそれを避けたのだという。

「僕は、この映画を、ふたりのジャーニーについてのものにしたかった。ふたりが直面すること、経験することを、観客にも一緒に体験してもらいたかったんだよ。旅が続くに連れて、ふたりについて少しずつ知っていってもらいたい。そっちのほうが、物語の語り方として、もっと面白いと思った」。

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映画館と配信、両方あるのはポジティブなこと

 映画が公開されるまでのジャーニーもまた、特別だった。このプロジェクトは当初、20世紀フォックスの中のレーベル、フォックス2000が持っていたものだが、ディズニーがフォックスを買収したことで、一時期、宙に浮いてしまったのである。幸い、すぐにユニバーサルが引き取ってくれ、2020年のクリスマス公開が決まるも、今度はパンデミックが起こってしまった。パンデミックをきっかけに、新作を公開後最短2週間半で配信に回せる新しい契約を劇場チェーンと結んだユニバーサルは、全米で4割しか映画館が開いていない中、予定通り公開を決行。そんな状況なので当然興行成績はさっぱりだったが、1月になってプレミアム・オンディマンド配信が始まると、アクセスで堂々の1位になっている。アメリカ以外の国の権利はネットフリックスが買ったため、世界のほとんどの人は、この映画を配信で見ることになった。しかし、グリーングラスはそれほどがっかりしていない。

 

「もちろん、僕はこの映画をビッグスクリーンのために作っている。でも、現実的に、今は映画館が開いていないんだ。ネットフリックスのおかげで日本でも見てもらえるのはありがたいよ。僕のひとつ前の『7月22日』もネットフリックスが配信で公開している。ネットフリックスは、彼らがいなかったら見てもらえるチャンスがなかったであろう映画を、たくさん人々に届けてきた。それはいいことだよ。この後も、映画館は無くならないと思う。そして、配信もこのまま存在していく。その両方があるのは、ポジティブなことだ」。