安倍晋三 首相
「国難突破解散だ」
共同通信47NEWS 9月25日
9月25日、首相官邸で会見した安倍晋三首相は、28日の臨時国会の冒頭に衆議院の解散に踏み切ることを正式に表明。28日に解散が行われた。
「モリカケ隠し解散」「ミサイル解散」「自己保身解散」など、さまざまな呼び方がされていた今回の解散だが、25日の記者会見で安倍首相が語ったのは「国難突破解散」。いずれの呼び方をも遥かに凌駕する大げささに驚いた人も少なくない。ツイッターには瞬く間にハッシュタグ「おまえが国難」が出来上がった。
安倍首相が挙げた「国難」とは、具体的に言うと「少子高齢化」と「北朝鮮」だ。前者については、「2020年度までに3~5歳の幼稚園・保育園費用の無償化」など、子育て世代への投資拡充に向けた消費税の使途の見直しについて「国民の信を問いたい」と述べた。後者については、「こういう時期にこそ選挙を行うことによって、北朝鮮問題への対応について国民に問いたい」と語っている(ハフィントンポスト日本版 9月25日)。
ただ、どちらも解散の理由としては弱い。少子高齢化については通常の国会で議論できる。教育社会学者の本田由紀・東大教授は「ずっと前から『国難』ですよ。それを今さら解散の言い訳にしようというのはまるで茶番です」「『国難』は安倍政権5年間の的外れな政策の結果」と辛辣に批判している(毎日新聞 9月27日)。また、自民党の税制調査会は26日の会合で、安倍首相が会見で語った消費税の使いみちについては、衆院選後にあらためて議論することを確認した(NHK NEWS WEB 9月26日)。首相の言ったことがひっくり返った格好だ。じゃ、何について「国民の信」を問うの?
北朝鮮についても同じだ。首相は会見で「民主主義の原点である選挙が北朝鮮の脅かしで左右されてはならない」と語ったが、何を言っているのかよくわからない。そもそも選挙をするのは安倍首相の判断であり、北朝鮮は一切かかわりがない。北朝鮮のミサイル発射や核実験は「国難」かもしれないが、こちらもずっと前から続いていることだ(毎日新聞 9月27日)。
「国難」という言葉は、戦前によく使われていたものだ。1931(昭和6)年に満州事変が始まり、33年に日本が国際連盟を脱退して孤立を深めた頃、さかんに「国難」が強調されたという(朝日新聞デジタル 9月27日)。近現代史研究家の辻田真佐憲氏は「国難突破」の4文字に、国威発揚を狙う戦前の国民歌を想起したという。「あえて使った首相に戦前回帰との批判もあるが、もっと意図的だと思います」「右寄りの支持者にも歓迎されると考えたのではないか」と指摘している(毎日新聞 9月27日)。
自民党のキャッチコピーと大川隆法総裁の著書名がほぼ一致
自民党の衆院選のポスターやビラに使用するキャッチコピーが「この国を守り抜く」になったのも、安倍首相の「国難」という表現を踏まえたものだ(時事ドットコムニュース 9月26日)。なお、このコピーを目にした幸福実現党の釈量子党首は、「大川隆法総裁の愛読者のレベル」と喜びをあらわにした(ツイッター 9月26日)。どうやら大川氏の著書のタイトルがほとんど同じだったらしい。
はたして今回の選挙は本当に「国難突破解散」なんだろうか? 自民党のあるベテラン議員は「“安倍の安倍による安倍のための解散”だ」と身も蓋もない表現で批判した(日テレNEWS24 9月18日)。自民党の選挙対策副委員長を務める平将明衆院議員は、解散について「(党内での)コンセンサスもクソもなかった」と打ち明けている(Abema TIMES 9月26日)。評論家の荻上チキ氏は「野党の足並みがそろわないという政局がほぼ全てだろう。選挙さえ終われば政権の全てに信任が得られたかのような議論はやめるべきだ」と指摘した(時事ドットコムニュース 9月25日)。とはいえ、「希望の党」が出現したことで、「安倍の安倍による安倍のための解散」になるかどうかも怪しくなってきたような……。