なんてうらやましいこと。一見して、まずはそう思ってしまう。
東京渋谷、Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の、ロベール・ドアノー写真展「写真家ドアノー/音楽/パリ」だ。
20世紀のパリを撮り続けた
何がうらやましいって、画面の中の世界では、街に人が溢れている。愉しそうに屈託なく、カフェやビストロで歓談し、路上にたむろし、抱き合ったり踊ったりしている。
これら写真作品の舞台はかつてのパリだけど、同じ場所も昨今の時世では、人通りがすっかり絶えてしまっていることだろう。すこしでも早く街の生活を、気兼ねなく人と交われる暮らしを取り戻したい。展示を眺めていると切にそう感じる。
ロベール・ドアノーは、20世紀を代表する写真家のひとり。美術を学ぶため若くしてパリに出て、1930年ごろから写真を撮り始めた。94年に没するまでルポルタージュ、ファッション、著名人のポートレート、スナップショットと、あらゆるものをあらゆる形式で撮影し続けた。
伝わるところによると、どんなに名が知られるようになっても、ドアノーのフットワークはどこまでも軽やかだった。みずから街に出て、これぞという瞬間をカメラで捉えるまで、いつまでも粘り続けた。
写真を撮ること自体や、撮るために人と濃密に関わることを、終生こよなく愛していたのだろう。