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音楽に満ちた街を撮った写真群
被写体は多岐にわたるけれど、彼の撮影地はほぼパリに限られた。石畳の街路を隈なく歩き回り、街のどこにだって出没した。
「動物園のライオンの檻の中や、ピカソのアトリエに入ることを許されるどんな職業が他にあるだろうか?」
との言葉を残している通り、風景や人物の姿を切り取ることを、心から楽しんだ。
撮り手の肯定的な気分が反映するのか、ドアノー作品はいつだってヒューマニティに満ちている。人肌の温もりをまとっているとでも言えばいいか。
とりわけ今展は、ドアノーが生涯にわたり撮った写真の中から、音楽にまつわるものを選りすぐって構成してあり、多幸感が強く漂う。
ほうぼうに顔を出して演奏する、流しのアコーデオン弾きの姿。大御所演奏家たちのポートレート。楽器が職人の手によって生み出されていく過程を詳しく追ったドキュメンタリー。演奏家とコラボレーションしてフォト・セッションをしたシリーズ。街路や広場が音楽に包まれた祭りの一場面、などなど。音楽が鳴り響くパリはまるで、丸ごと大きな芝居の舞台のようだ。
人がいて、音楽があって、生きる歓びがあちこちでハジけている。観るほどに、ドアノーの作品世界への憧れが、募るばかりなのだった。