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GoToで国民の意識が狂った

 ところが夏以降になると、GoToキャンペーンも始まり、せっかく抑えられていた人の流れが、簡単に戻ってしまった。

 日本は夏から秋にかけて「感染症対策」と「経済」を両立させることにチャレンジしました。尾身茂先生が「急所」とおっしゃる「会食」などの場を避けながら、感染対策の意識を高めて社会活動を戻していこうと。ガイドラインを決めたり、危険度のステージを設けたりもしました。ただ、一番強く思ったことは、感染を防ぐ最前線は個人の行動であって、そこを変えるのは決して簡単ではないということです。

 GoToそのもので感染者が増えたかどうか、まだ確固たるデータはありません。ただ、私なりに考えたり、知り合いの行動経済学の専門家の方々のお話を聞いたりして知ったのは、GoToは国民の意識を狂わせただろう、ということです。

「旅行者向け Go To トラベル事業公式サイト」より

 GoToトラベルにしてもイートにしても、使わないと損をしちゃう。それでタガが外れてしまい、いつの間にか「もう大丈夫なんだ、元に戻っていいんだ」という意識になってしまったのです。みんなで食事をしたりお酒を飲んだりする楽しさ、旅行に行く楽しさを思い出してしまうと依存症のようなもので、もう我慢できない。個人の行動を変える、意識を変えることこそが重要な感染症対策なのに、その意識をおかしな方向に向けてしまった。今後の対策を考えるうえで、これは重たい教訓として真剣に捉えるべきだと思います。

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©️iStock.com

ランダム化比較試験が必要

 大曲医師が臨床現場で多くの患者さんの治療にあたってきた中で、何かわかったことはあるのか。

 昨年2~4月の治療は、全くの手探り状態でした。本当に辛い時期で二度と経験したくないくらいです。私は以前MERSの研究班にいたので、その時の知見に基づいて、当初はコロナ感染者に効果が“想定できる”治療をしていました。場当たり的でも、まずは目の前の死に瀕した患者さんを治さないといけなかった。でも、本来はランダム化比較試験など、正当な手続きを経てコロナの標準治療を見出さなければいけないはずで、そこには非常に葛藤がありました。

おおまがり・のりお/1997年、佐賀医科大学医学部卒。2010年に静岡がんセンター感染症内科部長。12年より国立国際医療研究センター病院・国際感染症センター長。日本感染症学会専門医・指導医。感染症の臨床一般、危機管理を専門とし、この1年は東京都の新型コロナ対策アドバイザーとして、最前線で対応にあたってきた。

じんぼ・なおき/1970年生まれ。中央大卒。2004年より「週刊文春」記者。14年頃から主に医療・健康に関する記事を取材執筆。メイン執筆者となった文春ムック「認知症 全部わかる!」が発売中。20年10月をもって独立。