東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長の辞任劇は、欧米メディアに格好の材料を提供した。女性蔑視の男社会で、80代のボスが舞台裏で暗躍。日本政界のイメージ通りの筋書きだったからだ。
森氏が2月4日の記者会見で「辞任しない」と言った時、米国メディアの反応は早かった。米国は、セクハラを告発する#MeToo、人種差別に抗議するブラック・ライブズ・マター(黒人の生命は大切)運動を経験した。差別問題には極めて敏感だ。ニューヨーク・タイムズ紙はすぐに、「東京五輪のトップが女性を貶める発言をして、謝罪した」と報じた。
欧州紙の報道は当初、控え目だった。筆者が主に取材活動を行うフランスでもそれは同じ。スポーツ紙で五輪を担当するベテラン記者と話しても、「騒ぎは一過性のことだろう」と、何やら自民党幹部のような、気のない返事だった。
「日本に根付く男尊女卑の象徴」
欧州メディアが飛びついたのは、森氏の居座りが長引いてからだ。長老の首に誰も鈴をつけられないモタモタぶりに、各特派員もここぞとばかり、日本論を展開した。
英紙フィナンシャル・タイムズのレオ・ルイス特派員は2月8日付で「東京五輪のトップが、国家的恥辱をさらした時」と題したコラムを掲載した。ルイス氏は、83歳の森氏が東京五輪組織委の会長に就任したこと自体、日本政界に根差す病の表れと見た。
森氏は過去に何度も舌禍事件を起こしており、戦後の歴代首相の中で、最も支持率の低かった一人である。若さや多様性、スポーツの連帯感といった五輪のイメージとは、かけ離れているし、そもそも危なっかしい。こんな人物がトップに起用された背景には、「無気力」が広くはびこる日本の風潮があったと論じた。
仏紙ル・モンドのフィリップ・ポンス特派員は、「森氏の女性蔑視発言は、日本に根付く男尊女卑の象徴」と題して、いかに日本人女性が虐げられているかを書いた。
ポンス氏は、東京滞在が長い名物特派員。日本の異質ぶりをフランス風に皮肉るのが売り物の記者だ。「森氏の発言は、単なる80代男性の時代錯誤な妄言ではない。政界の長老たちは、男性優位に根付いた発言を繰り返してきた」と、政界の宿痾をバッサリ。