藤井将棋は、負けた対局でも光ります。彼は形勢が態度に出るタイプで、苦しくなるとうなだれます。けれど決してあきらめてはいない。勝負手を考えているんです。どうすれば逆転できるか、複雑な局面に持っていけるかということを、うなだれながら必死に考えます。大差で負けることはないし、負け将棋でも見せ場を数多く作る。決して相手を楽には勝たせません。
スーツに黒いスニーカー姿「革靴はまだ履かない」
つい先日、大阪でB級二組の順位戦があり、藤井二冠と将棋会館で会いました。大人びた和服姿も印象的ですが、その日はスーツに黒いスニーカー姿。まだ革靴を履いていないんです。それを見てハッとしました。完璧な将棋を指すので普段は忘れていますが、高校生なんですよね。
すでに10年選手と言ってもいい
今年4月、5月。対局ができなくなり、学校も休みになって家で自分の将棋を見つめ直した2ヶ月間で、彼はまた一段と強くなったと思います。読みがさらに鋭くなったのはもちろん、ギアチェンジがうまくなりました。指し回しに緩急をつけ、自分でペースを作る。これも羽生さんが得意とするところです。
たった4年でここまで強くなることも信じられませんが、その間ずっと世間に注目され続けるというのもなかなかない。他の棋士が時間をかけてもなかなか経験しないことを、この4年間で凝縮して味わっているんです。ある意味、すでに10年選手と言ってもいいくらいなんですよね。
二冠達成の快進撃が続いたことで、これからはトップ棋士たちとの対局も増えてきます。ライバル棋士たちは藤井包囲網を巡らせるでしょう。低段のときには予選も含めた勝率が8割を超えていましたが、今後トップ棋士ぞろいの対局で8割勝たれてしまうと、先輩棋士はたまらないでしょうからね。彼らは、藤井二冠がこれまであまり経験したことのない戦法で勝負を仕掛けてくると思います。さらに、やはり藤井二冠の終盤力には一目置いているので、序盤を飛ばし、終盤戦で少しでも持ち時間を多くすることで互角に持っていこうとするでしょう。その中でどう戦っていくかが見どころです。
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谷川九段が明かした藤井二冠「最大のライバル」、そして2021年も棋界で中心を担うであろう「4人の棋士」とは。この記事の全文は「文藝春秋 電子版」で公開中です。
藤井聡太 すでに棋士として完璧に近い