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2021/02/18

5時間、6時間……デビュー当初から長い持ち時間に対応

 藤井二冠はまだ18歳ですが、あの若さにして、すでに棋士として完璧に近いと思います。負けん気の強さに集中力、絶妙な時間の使い方と、何より将棋への飽くなき探求心がある。

 彼にとって初めての2日制、持ち時間8時間の王位戦。私は第1局で立会人を務め、2日間とも対局を見守ったのですが、持ち時間の使い方には目を見張るものがありました。急所の局面ではたっぷり時間を使って考える。そこでひとたび方針を決めてしまえば、その次はあまり時間を使わず、また岐路に差し掛かったところで時間をかける。

2020年9月、第91期棋聖就位式で ©JMPA

 実は、棋士が奨励会からプロ入りして一番戸惑うのが持ち時間なんです。それまで90分だったのが、急に5時間、6時間となる。最初はなかなか時間を使い切らずに負けてしまうことが多くて、1、2年かけてだんだん慣れていくものなのですが、彼はなぜだかデビュー当初から長い持ち時間に対応できていた。これが不思議で仕方ないのです。

 私は彼と、去年、今年と2度公式戦で戦い完敗しました。そのときの集中力は、並のものではありませんでした。順位戦では最も長い、持ち時間6時間の対局。中盤で互いに1時間半くらいの長考があったのですが、その間も藤井二冠は一切集中が途切れない。いくらプロ棋士でも、1時間も考えていると少し休みたくなるものですが、彼は長考の応酬のような局面が続いてもずっと盤の前に座って前傾姿勢で読み続けるんです。

羽生に重なる正統派将棋

 そうやって、じっと考え抜く力が素晴らしい。昭和の時代は、とにかく盤の前に座ってからが勝負というところがありました。けれど一世代下の羽生善治九段ら平成の時代になると、事前の準備を念入りに行うようになり、序盤の体系化が進みました。ただその流れにおいても、羽生さんや佐藤康光九段、郷田真隆九段などは、考えても結論の出ない序盤から1時間、2時間考えるということをしていたんです。時間の長いタイトル戦のときは特にそう。そうして考えた一手が、たとえその対局では意味をなさなかったとしても、若いうちからの考える時間の積み重ねが、彼らが50歳を迎える今なお活躍を続けている理由だと思います。

©文藝春秋

 藤井二冠の将棋は正統派で、羽生さんに重なるところがあります。序盤から考え、相手が得意で自分があまり経験のない形に飛び込む。そうやって、相手の豊富な知識を自分のものにしようとする貪欲さ。長く活躍する棋士はみなこれを持っています。羽生さんの場合は根底に好奇心がありますが、藤井二冠の原動力も同じではないでしょうか。事前の準備をいくらしても、実際の対局で自力で考えて出す結論にはかないませんから。