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「何この車? 大統領でも来てるの?」

 これは付き人になってずいぶんたってからの出来事なのですが、あるとき志村さんに、

「お前んちのテレビ、どれくらいの大きさだ?」

 と聞かれました。

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「20インチくらいです」

 と答えると、

「じゃあ、俺が今まで使っていたのをやるよ。明日取りに来い」

 と言われました。それは世の中がアナログからデジタルに替わり始めた頃で、志村さんは新しくデジタルテレビを買ったのでした。

昨年設置されていた東村山駅前の志村さんの献花台 ©️文藝春秋

 翌日、約束の時間にお邪魔すると、それは37インチのブラウン管テレビでした。

「車、使っていいぞ」

 そう言われたのでお言葉に甘え、リムジンに積んでアパートへ持っていくと、1階に住んでいた大家さんに出くわしました。

「何この車? 大統領でも来てるの?」

 目を丸くする大家さんに、

「まあ、そのようなもんです」

 と答える僕。えっちらおっちらテレビを2階に運び、部屋に設置して愕然としました。6畳1間の部屋のうちの1畳を、テレビが占拠しているのです。タテが約56センチ、ヨコが約75センチ。そんな巨大なテレビと至近距離で向き合うようになって、僕の視力はみるみる低下していったのでした。

「お金をおろしてきてくれ」と頼まれると…

「志村けんの木」についての説明 ©️文藝春秋

 自宅にいる志村さんから「お金をおろしてきてくれ」と頼まれることもよくありました。キャッシュカードを預かって、自転車で銀行に行き、お金をおろす。こう書けば簡単な仕事ですが、これが大変でした。というのも、1回におろす額が100万円などということがよくあったからです。

 20歳そこそこの若造が、100万円を手にするとどうなるか。僕の場合、目に入ってくる人すべてが強盗に見えました。ですから、お金をおろすと必死にいかつい顔をつくりました。そして目が合った人たちをにらみながら、大急ぎで自転車を漕いで戻るのです。この仕事には最後まで慣れることができませんでした。