文春オンライン

野球「チェコリーグ」初の日本人選手・田久保賢植 “口論も厭わない国”で得たもの

文春野球コラム ウィンターリーグ2021「呼ばれてもいないのに海を渡った野球人」

2021/02/21
note

世界各国を渡り歩いた方こそ得た「オンリーワンの武器」

「最初は8割くらい打ってやろうと思っていました(笑)」と舐めていた部分もあったが、想像以上に高いレベルと環境の良さが気に入った。主力として活躍するだけでなくユースチームのコーチも任され指導者人生もここから始まった。2013年はアメリカの独立リーグでプレーしたが、2014年には欧州に戻りオーストリアリーグのフェルトキルヒで監督兼任選手、2015年には再びフロッシ・ブルノに戻るとオールスターゲームにも出場した。

 2014年からはオーストリア代表で監督を務める坂梨広幸のもとでコーチを務めるなど中欧で確かな足跡を残した。

オーストラリア代表としてチェコ代表と交流 ©田久保賢植

 そして2015年に現役引退、オーストリアの代表強化も坂梨らに託して帰国した。現在は地元の千葉県八千代市で家業であるリノベーションなどの内装業に加え、三好が代表を務める株式会社BMI (ベースボールマネージメントインターナショナル)でコーチング業務やスクール業を担う。三好も「適応力や突破力、コミュニケーション能力が高いです。僕がアメリカにいる時も日本での仕事を任せておけるのは彼のおかげです」と全幅の信頼を置いている。

ADVERTISEMENT

 田久保の指導の売りはなんと言っても世界各国でプレーしてきたゆえの引き出しの多さだ。例えばチェコでは口論をも厭わずに意見をぶつけ合うが、それが終われば絆が深まった。骨格や運動能力の特徴、国民性も国ごとに違う。現在指導している選手たちも「やっぱり日本人は俊敏性に優れているのですが、子供によってはこの子はヨーロッパ型だなとか、アメリカの野球少年みたいだなと思う選手がいますね」と話す。

 あらゆる特徴の違いが分かれば、指導のアプローチも変わる。「今はできないことが多いから、まずは楽しく野球をしてもらおう」という選手もいれば「気合も入っている日本人っぽい動きの子だから技術を叩き込んでいこう」という選手もいる。田久保が「この振り幅が誰よりもあるのが僕の強みだと思います」と自負するように、一人ひとりに応じた指導が選手たちの成長に繋がっている。

指導中の様子 ©田久保賢植

 また、家業の内装業でもリノベーションの際の意見の摺り合わせには、文化の違う各国での勝利という目的に向かって行ってきたコミュニケーションが役立っている。だからこそ日本球界を飛び出して各国を渡り歩いた歩みに後悔はない。

「やりたいことを一生懸命やって限界を決めない。僕はそれを継続することで新しい道が開けていきましたから」

 これからも飽くなき向上心を胸に、目の前の仕事と選手に全力で向き合っていく。その原動力や強みは世界各国を渡り歩いたからこそ得た「オンリーワンの武器」を自在に扱えることだろう。

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ウィンターリーグ2021」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/43592 でHITボタンを押してください。

HIT!

この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。

野球「チェコリーグ」初の日本人選手・田久保賢植 “口論も厭わない国”で得たもの

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春野球をフォロー
文春野球学校開講!