「球場に観に来られないファンの方に少しでも楽しんでもらえたら」
チームの休日に合わせて担当記者はPCR検査を義務づけられており、外食も厳禁。毎日、夜8時には借りているマンションに戻り自炊をスタート。これが冒頭の「健康的」の意味だ。白菜、にんじん、キノコ……野菜を切って電気鍋に放り込み、ピンク色の豚肉をくぐらせれば立派なあぐー豚しゃぶしゃぶの完成。「ざまみのシークヮーサーぽんず」のオプションを付ければグレードアップも可能。毎日、スーパーに通うから、あぐー豚の相場にだけは詳しくなった。食後は韓国・梨泰院にある“タンバム”という店でマイケル・ジョーダン率いるシカゴ・ブルズの黄金期に酔いしれる。ネットフリックスの偉大さを噛みしめる夜はあっという間に過ぎていく。
苦しい取材環境を強いられる中でも、球団の協力もあって、1クールに1人のペースで選手への単独インタビューや評論家との対談が可能。こちらも感染防止の観点から写真撮影も含めて取材時間は15分と決められている。話が弾まなかったら……という恐怖と緊張感をいつも以上に味わうのは、今年だけにして欲しいと願う……。先日、ある選手をインタビューした際に「写真はパッと撮るから時間たっぷり使ってくれていいよ」との先輩カメラマンの心遣いも身に染みた。今年の2月は決して悪いことばかりではない。
制限や制約があるからこそ、輝くものもあると思っている。ツイッター、インスタグラムへ投稿する選手の写真に対してはいつも以上に反応が多いし、観戦できず枯渇している情報を求めて紙面を購入してくれる人も増えた気がする。キャンプ直前に満を持してインスタグラムのアカウントを開設した藤浪がこんなことを言っていた。
「こんな時なんで、球場に観に来られないファンの方に少しでも楽しんでもらえたらと思って」
近年苦しむ若き豪腕がファンと距離を縮めたのもコロナ禍が生んだ“副産物”だろう。幸いにも、記者に欠かせぬペンもノートもパソコンもコロナに脅かされることはない。そこにカメラも加えて……。限られた人しか入れない現場から情報発信、記事執筆をするのは、ある意味「使命」なのかもしれない。豚肉の色が変わるのを待ちながら、今、そんなことを考えている。
チャリコ遠藤(スポーツニッポン)
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