良く言えば「健康的」悪く言えば「空虚」だろう。どうやらプロ野球記者になって12年目の“2月”はそんな1カ月になりそうだ。コロナ禍で迎えた21年のキャンプ。昨年の今頃は「中国で新しい風邪が流行っている」ぐらいに、どこか他人事だったウイルスが1年経って球界の“お正月”にも容赦なく影響を及ぼした。
数え切れないほどの選手と言葉を交わしていた日常も遠い昔
阪神タイガースのキャンプ地である沖縄・宜野座もご多分に漏れず……。例年、空席を見つけることが困難だったメイン球場のスタンドには当然ながら誰もいない。ブルペンに目を移してもそうだ。藤浪晋太郎が“ラスト1球”とコールして投じた豪球がミットに収まると巻き起こっていたギャラリーからの拍手も今年は1度もない。無観客を実感する場面は、閑散とした球場内外のいろんな所に転がっている。
僕たち記者もなかなか身動きが取れない。感染防止のルールが徹底され、ぶら下がりでの取材は禁止。選手が帰りのバスやタクシーに乗り込む動線に隣接する赤いコーンで囲まれた「ミックスゾーン」が唯一、許された会話の場になるが、ここも1社1人の制限付き。お目当ての選手が帰るタイミングを見計らって先輩、後輩とバトンタッチするのが流れ。今まで、1日に数え切れないほどの選手と言葉を交わしていた日常も遠い昔。挨拶することさえできず1日が終わってしまうことも珍しくなくなってしまった。そこで、僕はレンズを覗くことにした。
大学時代に興味本位で購入して以来、ずっと活躍の場を与えられなかった一眼レフカメラをスーツケースにしのばせてきた。球場に足を運べないファンの人たちに向けてツイッター、インスタグラムで配信する写真をひたすら撮りまくっている。“あいさつ代わり”にシャッターを押すと、声は届かない距離でもカメラに気づいた選手がサービスショットをくれたりする。小さな喜びだ。一方で虎の“笑わない男”岩崎優には「写真載せたら絶縁。モザイクならいいです」と厳しい“岩崎ルール”を定められてしまったが……。コロナ禍で見つけた新しいコミュニケーションの手段になっている。
キャンプ取材の本番と言えば、夜だった。タイミングが合えば会食に行き、今取り組んでいることや今年に懸ける思い、時には悩みも聞いたり。貴重な時間を割いてもらった場で手にしたエピソードが数ヶ月後、シーズン中に活躍した際の1面原稿で日の目を見る。これが、スポーツ紙記者の醍醐味でもあった。思い返せば初めて食事に行った選手と打ち解けたのも、1ヶ月後に結婚することを聞いたのも沖縄だった。記者も選手と同じでこの1カ月が大事だったと、あらためて実感する。