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「今年は振りかぶって投げようかなと」藤浪晋太郎26歳、“原点回帰”が意味するもの

文春野球コラム ウィンターリーグ2021

2021/01/31

 思わず熟読してしまった。顔を見ればまさに強者。街で出くわしたら、道を譲るか、尻尾を巻いて逃げるしか選択肢はない。それぐらいの威圧感がある。集結した極小で鋭利な歯はまるで「おろし金」。大きく開いた口には、これまでどれだけ多くの生命が吸い込まれていったのだろうか……。朝から想像を膨らませてくれたのは、1月26日付の毎日新聞で見た小さな囲み記事。ある生物の発見を伝えるニュースだった。

 駿河湾の深海調査でセキトリイワシ科として最大種となる新種を発見。読み進めれば、同湾の深海で食物連鎖の頂点に立つ“王者”だという。もちろんセキトリイワシの存在すら知らなかったのだが、セキトリにちなんでその名も「ヨコヅナイワシ」。発見した海洋研究開発機構のツイッターでは“トップ・プレデター”とも表現された。「頂点の捕食者」。格好良い……。いつだって“図鑑”に新種が記される時の興奮は、変わらない。30年近く前、どこか忘れた山奥にある木の樹液に群がるカブトムシやクワガタムシを見つけたあの時。何歳になっても、コドモゴコロをくすぐるこの手のニュースにテンションは上がってしまう。

記者にとって心躍る男、藤浪晋太郎

 このまま強面の深海魚について書くわけではないので、ご心配なく……。記者としてずっと阪神タイガースを追いかけてきた。今年で12年目。その間に結婚もしたし、今は子どもも3人いる。昨年からバスケットボールを始めた長男が尊敬の眼差しを送るのは、もちろん父なんかではなく、千葉ジェッツのポイントガード・富樫勇樹選手。年末に大阪での試合を生観戦した我が子の目の輝きはすごかった。

 またまた話が脱線しかけたが、長い「虎番生活」で仕事がルーティン化してくるのは否定できない。顔を合わせる人も、こなす仕事もほとんど不変。小さな世界をグルグル周回しているイメージだ。1年のサイクルが異様に早く感じられるのも気のせいではない。2月に沖縄へ来ると、あれ? ついさっきブルーシールアイスで塩ちんすこうか、ピスタチオにするかを悩んでいたような……なんて。そんなことを考えていたら、またキャンプインが迫ってきた。それでも今、少しワクワクしていることに気づく。息子にとっての「富樫さん」のように、記者にとって心躍る男がタイガースにもいる。

©文藝春秋

 奇しくも、ヨコヅナイワシが発見された日、鳴尾浜球場のブルペンで腕を振っていたのは、藤浪晋太郎だった。今年で9年目を迎える26歳。かつてのゴールデンルーキーも、ベテランが去ったチームの中で、もはや中堅に位置。シーズン終了後「もうアラサーですからね」と苦笑いを浮かべていた。

 近年、背番号19は、もがき苦しんできた。書き尽くされた感もあるので詳細には触れないが、投球フォームに狂いが生じ、1週どころか2週も、3週も迷走した。昨年、2年ぶりに1軍で勝利。シーズン中盤からはリリーフで起用され、球団最速を更新する162キロをマークするなど、たとえ1勝止まりでも、強烈なインパクトを残した。何より、コロナ禍で客数の上限が設けられた球場の盛り上がりが違う。これまでローテーションの中心として走り抜けたシーズンも、苦闘した数年も目にしてきた。それでも変わらないのは、“どんな藤浪”にも注がれる声援の大きさとロマン。連日のように160キロに迫る直球を投げていた昨季終盤、「やっぱり藤浪はすごい」と帰路につくファンは多かった。記者の気持ちも大差ない。