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中朝国境・丹東の“北朝鮮レストラン”で見た「北の現実」

いろんな意味で「北朝鮮に近い」町を歩きまわってみた

2017/10/06
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資本主義と社会主義が混ざる都市

「わが元帥様がお導きになる社会主義のわが国。他人が羨むように輝かせよう、これ見よがしに」

 北朝鮮レストランの女性従業員は、中国人を前にしてこう歌った。丹東の現実の姿を見れば、これほど虚しく響くものもない。

丹東の新市街には「江戸温泉城」も誕生。日本式の温泉から北朝鮮を一望できる。人気のようでこの日も駐車場はいっぱいだった。

 だが、そう簡単に北朝鮮崩壊論の類を唱えてよいものだろうか。

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 中朝国境はかなり密接だ。対岸と物々交換するなとの看板もあった。戦前の日本も、中国側からわたってくる抗日パルチザンの討伐に悩まされていた。

 もし北朝鮮が崩壊すれば、すぐそこまで西側がやってくる。とすれば、鴨緑江を挟んで、中国は米国と対峙することになりかねない。中国にとって北朝鮮の崩壊はあってはならないことだ。

 中国政府は9月28日、国連安保理の決議を受けて、北朝鮮系企業にたいし、同月11日の決議から120日以内に閉鎖するよう求めた。これで北朝鮮レストランは見納めになるかもしれない。とはいえ、中国が貿易を完全に止めるとは考えにくい。

 プロパガンダとイデオロギー、現実と虚構、本音と建前、資本主義と社会主義、政治と観光――。

 これらがない混ぜになった、くらくらするような丹東の光景は、これからもしばらく続きそうである。安易な崩壊論や脅威論はさておき、まずはその姿を見ておくにしくはない。

宿泊したヒルトン・ガーデン・イン丹東からの眺め。朝でも夜でも中朝友誼橋と北朝鮮を観察可能。

写真=辻田真佐憲

中朝国境・丹東の“北朝鮮レストラン”で見た「北の現実」

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