9月末、北朝鮮に接する中国遼寧省の都市・丹東を訪れて驚いた。ハローキティ、ドラえもん、ミッキーマウス、そして金日成、金正日の「グッズ」がお土産として雑然と並べられていたからである。
もちろん、鴨緑江の向こう側で作られたものではない。中国側の製造業者が、金日成と金正日の肖像を勝手に使ったものだ。
中朝貿易の7割が集中する都市・丹東
日本で丹東といえば、北朝鮮で核実験などが行われたときに、テレビ中継される場所として知られる。そのため、物騒な場所とのイメージが根強いかもしれない。
たしかに、丹東は、中朝貿易の7割が集中し、北朝鮮系の団体が外貨獲得のために運営するレストラン(北朝鮮レストラン)も多く、さまざまな意味で「北朝鮮に近い」場所ではある。
だが、同時に丹東は、「北朝鮮を見る」観光地であり、リバーサイドビューを売りにする高層ホテルが林立している。鴨緑江沿いの遊歩道は夜になるとライトアップされ、カップルが行き交う。丹東はたんに物騒な場所ではない。
思い返せば、中朝国境は、かつて大日本帝国の国境でもあった。ふたつの警察国家が隣り合うこの場所は、日本とも無縁ではない。薄れつつある陸の国境の記憶とともに、丹東の最新の姿をレポートしたい。
観光地化する中朝友誼橋
中朝国境の要は、鴨緑江に架かる中朝友誼橋である。経済制裁が行われているというが、見たところ、昼夜を問わずにトラックが行き来していた。
この橋は、太平洋戦争中の1943年に日本によって架けられた。大日本帝国の遺産が、北朝鮮の生命線のひとつになっているのは皮肉だ。
中朝友誼橋のすぐ隣には、1911年にやはり日本によって架けられた橋があったが、朝鮮戦争中に米軍に爆撃され、破壊されてしまった。現在、その遺構が「鴨緑江断橋」として、愛国教育の拠点となっている。
このふたつの橋は、丹東の観光資源でもあり、橋のたもとには、前述の金日成・金正日「グッズ」や、偽ブランド品、マトリョーシカなどを売る出店が連なっていた。写真撮影はまったく禁止されておらず、呑気に自撮りを楽しむ観光客の姿もあった。
鴨緑江断橋の先端部分からは、北朝鮮を間近で展望できる。ここにも出店があって、こちらが日本人とわかると、奥から金日成、金正日、金正恩のバッジを取り出してきた。そして日本語で「35元」(約600円)と売り込んでくる。作りの雑さから明らかに偽物だが、買い求める日本人も多いのだろう。
こうした丹東側の賑わいにくらべ、北朝鮮側は人気がなく、まったくもって静かだった。