企業のコンプライアンス遵守が叫ばれるようになって久しいが、それでもパワハラは一向に無くならない。
厚生労働省が12年と16年に行った「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」によれば、過去3年間にパワハラを受けたことがあると回答した従業員数は25.3%(12年)から32.5%(16年)と増加している。
行政側も後手に回っていた対応にようやく本腰を入れており、昨年6月に施行された「改正労働施策総合推進法、通称・パワハラ防止法」によって、ようやく日本の法律で初めて「パワハラ」が規定され、企業側にパワハラ防止のための雇用管理上の措置が義務付けられるようになった。
ただし、現在のところ同法の対象は大企業のみ。中小企業では22年4月からの施行と先送りされているため、パワハラ問題はまだしばらくの間、野放しとなりそうだ。
パワハラがまん延する企業は、実際にそれを行う個人だけでなく、行為を容認し、助長する社内風土にも問題がある。そもそも本来なら問題の解決に率先して取り組まなければならない組織の経営幹部によるパワハラも目立つのだ。
そこで改めて、これまでパワハラで問題になった企業やその経営幹部たちの「パワハラ暴言」を振り返ってみたい。(取材・文=常田裕/清談社)
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「365日24時間、死ぬまで働け」(ワタミ・渡邉美樹会長)
日本で“ブラック”と呼ばれる企業は数多いが、 “ブラック企業”としてまず名前が挙がるのはやはりワタミだろう。創業者の渡邉美樹会長はブラック暴言の宝庫で、社員に配られる理念集には冒頭の言葉をはじめ、パワハラを是とするような理念が書かれており、過去の著書やインタビューなどでも、パワハラ発言をまるで武勇伝のように公言してきた。
「ビルの8階とか9階で会議をしているとき、『いますぐ、ここから飛び降りろ!』と平気で言います」
「営業12時間の内メシを食える店長は二流」
「『ごめん。今月、給料はゼロです』と言ったことが何度もあります」
「(ワタミは)もう爪の先まで自分のものです」
2008年には、新入社員だった女性が過労自殺に追い込まれ、大きな社会問題となったが、渡邉氏は、「労務管理できていなかったとの認識はありません」「(自殺した女性の)心の病みを察知できなかった」と、問題を軽視するような言動を連発。大いに社会の反発を買った。最終的には責任を全面的に認めて謝罪しているのだが、死去から7年半にわたって謝罪を拒み続けた姿勢は、そのブラックぶりを日本全国に知らしめる結果となった。
2013年に選挙に出馬して参議院議員となった渡邉氏は一時、同社の経営から離れていた。ワンマン創業者が不在となったワタミは労働環境の改善に努力し、従業員も労働組合を結成するなど、「ホワイト企業」に生まれ変わったことを内外にアピールしてきた。
ところが2019年になって渡邉氏が代表取締役に復帰。昨年9月にはまたもや長時間労働や残業代未払いで厚労省から是正勧告を受けていたことが発覚するなど、社内には不穏な空気が漂い始めている。企業の体質はそう簡単には変わらないということだろう。