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ベイスターズ・細川成也が真の“ヘラクレス”になるために――元近鉄の“元祖ヘラクレス”栗橋茂さんに聞いてみた

文春野球コラム ウィンターリーグ2021

2021/03/04
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※こちらは「文春野球学校」の受講生が書いた原稿のなかから、文春野球ウィンターリーグ出場権を獲得したコラムです。

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 今年も、横浜にはポッカリと穴が空いた。あれだけ騒がれた“筒香の穴”は佐野恵太が見事に埋めたものの、今度は梶谷隆幸が巨人に移籍し、再びベイスターズには埋めがたい穴ができた。

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 さらに、ソト、オースティンらの来日にも目途が立たない。お月さまもビックリするクレーターの多さだ。

 だが、横浜には“ヘラクレス”がいる。

 初打席でバックスクリーン直撃弾を放ち、ルーキーながらCS、日本シリーズにも出場した。昨年はレフトスタンド看板直撃弾を放ち、凄味を増し続ける“ハマのヘラクレス”細川成也こそ、あらゆる穴を埋めうる、横浜の希望だ。その恵まれた肉体と長打力は、ギリシャ神話の英雄の称号を授かるまでに期待されている。

 一方で、その期待に応えきれない日々が続いてもいる。

細川成也 ©文藝春秋

“元祖ヘラクレス”がいる藤井寺のスナックへ

 年の瀬に、大阪・藤井寺のスナックを訪れた。ヘラクレスのことを知りたい。ならば、ヘラクレスに聞くのが早いだろう。

 暗いカウンターに、男が佇んでいた。冬着の上からでもわかる厚い胸板や太い腕は、彼が常人ではないことを雄弁に語っている。

 彼こそ、かつて近鉄バファローズで4番を打ち、“和製ヘラクレス”と称された栗橋茂だ。誰よりもヘラクレスであり、ヘラクレスを知る男だ。

栗橋茂さん ©スギタ

 プロ5年目を迎え、その覚醒は細川にも、横浜にも欠かせない。そのカギは何なのか。真のヘラクレスとは、何か。

 もうすぐクリスマスという夜、ヘラクレスが、ヘラクレスを語った。

「どうせ、外の球打ってんだろ?」

「外を打っているな」

 昨シーズンの看板直撃弾を見た直後の第一声だった。飛距離など気にせず、打ったコースとスイングを見ている。

「デビュー戦も見て下さい、バックスクリーンを直撃……」
「どうせ、外の球打ってんだろ?」

 ドキッとして、スマホを操る手が一瞬止まった。たしかに、3年前のその一打も、外のストレートを打ったものだ。

「体の開きが早い」
「腕の長さとパワーで外の球を打てている」
「インコースを流して、アウトコースを引っ張っているんだよ」

 辛口な言葉が並ぶ。

 三振が多く、確実性に欠ける。変化球が課題と本人も認める。パワーは桁外れだが、粗い。そんな今までの細川評を、目の前ですごく具体的に聞かされている気がした。

「インコースを引っ張ることができたら、恐ろしいバッターになるかなって感じはするけどね。そういうパワーはある」

 なるほど、言われてみれば細川は外の球を捉えているシーンが目立つ。ブレークすればどのみちインコースを攻められるのだから、たしかに重要な課題だ。

 インコースをさばく。そのためにヘッドを返す。きっちりストレートを打ち返す……予想に反して、技術の話が続く。以前、「俺はヘラクレスってだけで打ってきたんじゃねえよ」と、笑っていたことを思い出す。ヘラクレスの流儀、パワーにあらず。

 元祖ヘラクレスのバッティングは技術に裏打ちされていた。だからこそ、たった1本のホームランを見ただけで「外の球打ってんだろ?」とズバリ言い当てたのだ。栗橋の口から出てくる細川評は唸ってしまうものばかりだ。

 やはり、ダメなのか。レギュラーを獲るには技術が必要で、細川にはそれが足りていないのか……。

 悩んで言葉を継げない。傍らのテレビから流れるニュース以外、静寂が続く。沈黙を破ったのは、栗橋だった。

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