パワーと技術のハイブリッド、それこそが真のヘラクレスの道
「……でも今は、筋トレでパワーがついたから、まだね」
……ん? 筋トレ?
「ポイントも大事だけど、パワーの方がバッティングを変えるって言うね……」
パワー?
「パワーっちゅうのは、もっとハッキリした答えが出るみたいな感じはするね。それはマスターズリーグで感じたわ。あっ……パワーなんだ……みたいな、本当それは感じたね」
突如パワーを語り出す栗橋。ヘラクレスの秘密にグッと近づいてきた……のはいいが、いや、マスターズリーグということは、引退してからパワーの大切さに気付いたということか……。はぁ、と気の抜けた相づちが出てしまう。
気を取り直して、パワーがバッティングをどう変えるのか尋ねる。
「気持ちに余裕が出るよね。詰まっても落ちる、そのヒット1本が精神的に2本目、3本目を生むわけだからね。それは大きい」
かつて、パワーは邪道だった。だからこそ、栗橋もヘラクレスと呼ばれながら技術で登り詰めた。ヘラクレスの流儀、パワーのみにあらず。恵まれた肉体に技術を上乗せする。パワーと技術のハイブリッド、それこそが真のヘラクレスの道というわけだ。
「もっともっと飛んでもいい。飛ばなきゃいけないと思う」
「結局、細川はパワー活かした方がいいんですか?」
「そんなの、特技だよ。もう少し……かたちだと思うな。かたちちょっと変えたら、もっとヘッドが出る」
「ヘッドが返る面白さ、たぶん2軍では知っているんだと思う。1軍でも、もっともっと飛んでもいい。飛ばなきゃいけないと思う」
飛ばなきゃいけない――その言葉にハッとした。彼が秘めるパワーは、元祖にそう言わしめるレベルなのだ。あと少し歯車が噛み合えば、真のヘラクレスが生まれる。その可能性は、たしかにある。
細川の打球を初めて見た時を思い出す。ツーベースになるだろうか。そんな当たりだった。だが、白球は空中で加速するように伸び続け、そのままバックスクリーンに跳ね返った。
こいつは大物になる。ハマの、いや、日の丸の4番を背負える器だ。そう信じてから、もう4年も経った。
栗橋は「池山に似ているね」とも言った。元ヤクルトの池山隆寛は4年目にレギュラーになった。横浜でも、田代富雄は4年目、筒香嘉智は5年目にブレークを果たした。歴代のスラッガーが要した時間を、細川もまた過ごしてきた。
「ちょっと感じ掴んだだけでも、コロっと変わったりする」
栗橋はそう言った。パワーは元祖が認めている。この冬を越え、彼はその“感じ”を掴めるのか。
真のヘラクレスは、横浜に現れるのか。
細川成也がその答えを示す日は、遠くない。
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