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 それにちょっと考えれば、誰だって損得勘定が出来る。原発の関係会社が街にいっぱい出来て、飲み屋、飯屋にだって活気が出ると計算する。ここら一帯は元々なにもない寒村だ。国道から一本入れば砂利道ばかりで、人もいない、活気もない。金もない。若いヤツは学校を出るとすぐ都会に出て行ってしまう。それは仕事がないからだ。

(写真はイメージです)©️iStock.com

(後ろを振り向き町内会長に向かって)お前さんのところも、息子が○○電力だったよな?

 こんなちいちゃい街、役場に就職するか郵便局に勤めるか、田畑耕すか、魚獲るか。大きな会社なんてどっこも来てくれない。○○電力様様だ。

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表面上、頼もしい街の顔役だが……

(建設の)話が表に出たら、街は蜂の巣をつついたような大騒ぎになったよ。もう土地はこっちで買ってあるし、それから騒いでも遅(おせ)ぇんだけどな。賛成、反対……みんな好き勝手言うけど、本音を言えば金、金、金、どれだけ儲かるのか、いくら稼げるのか、頭にあるのは金のことしかない。電力会社は普通の企業と規模も体質も違う。バックにいるのは日本政府だ。素直に、はいはい言ってたらなめられちまう。あっちこっちから蟻が群がってきて、儲けがよそに持ってかれちゃうんだ。

(写真はイメージです)©️iStock.com

 俺たちは街のため、みんなのため、地元が少しでも多くの金を取れるよう努力する。それをちゃんと地元に還元する。街の人間に嫌われたらヤクザなんてやっていけない。地元密着の人気商売だから、みんなで儲けてハッピーにならないと生きてはいけない。きっちりそれを有言実行してるから、警察だって見て見ぬふりをしてくれる。それに警察だって、ほとんど俺らの幼なじみだよ。あいつらも仕事だ。上からヤクザを取り締まれと言われたら逆らえない。だからメンツは立ててやる。共存共栄。だからこうして、祭りの時にはみんなが挨拶してくれるわけだ。カタギさんを大事にしないとヤクザは生き残れない。暴対法みたいなもんができたらなおさらだろう。カタギの生き血を啜(すす)るような暴力団は消える。俺たちにとっても大歓迎だ」

 表面上、親分は頼もしい街の顔役にみえた。地域密着に関しては仰せの通りだ。が、何年も暴力団取材をしていれば、言葉のすべてを額面通り受け取るウブさは消えている。慕われているのか、怖がられているのか、その両方か、割合の判別はある程度できる。

 どんな暴力団であれ、彼らの存在価値が暴力であるという前提は変わらない。程度の差こそあれ、恐怖で他人を支配し、コントロールするのは、暴力派だろうと穏健派だろうと同じだ。流行のエコカーだって有毒ガスをまき散らす。程度が少ないというだけで毒は毒である。

ヤクザと原発 福島第一潜入記 (文春文庫)

鈴木 智彦

文藝春秋

2014年6月10日 発売