佐藤の告白
以降、佐藤はたびたび自分の身の上話をするようになった。
吐くまで飲んだ仲……という陳腐な事実が、佐藤にとって心を打ち明ける一線だったのかもしれない。幼稚な体育会系の精神構造は、しかし、原発作業員としては、スタンダードだろう。よく言えば頭ではなく体で語り合うタイプ……行動が伴わず、口だけの人間を佐藤は嫌う。
客観的に観ると、それは過剰な不信感だった。死の危険を顧みず1Fで作業したという事実が、彼のプライドを増幅しているのだろう。取材対象としては極めて面倒でやりにくい。自分と同じ目線まで降りてこない限り、どこまでも話をはぐらかし、相手を小馬鹿にするからだ。
少年時代はよくいる不良で、これまたありがちな大人社会―具体的に言えば父親に対して反抗していたという。両親からの𠮟責には耐えられたのに、大好きだった祖父母から「まともな人間になれ」と怒られたことが引き金となり、カッとして家を飛び出した。毎晩、違法改造のバイクで暴走し、近所の噂になっていたことをとがめられたのだ。
ただし金はない。友達の家に転がり込んだ。
「親父だけに言われるなら……まだ堪えられたんだけどね、おじいちゃんとおばあちゃんからも、親父と同じこと言われてイラッとしちゃって。不満が溜まってたから、本当の原因は親父ですね。なにかしたいと気持ちばっかり焦って、でもうちの父親が働かなくて。親父……いま何してるか、生きているかどうかさえ知りません。
ガキの頃、憧れた職業ですか? 親父みたいになりたくない、とにかく金持ちになりたかったですね。内容はどうでもいい、金に困らない生活をしたいって。金が必要だったけど、原発で働こうという未来予想図を持ったことはなかったです。卒業文集の将来の夢の欄に『原発作業員』って書く子供なんて気持ち悪いでしょ(笑)。
友達のお母さん……すっごく優しかったです。一年近くブラブラして、家に住み着いてしまったのに、毎日ご飯作ってくれて。こりゃあ俺もブラブラ遊んでらんねぇな、って思った。暴走族とか、まぁ、それなりに楽しかったんだけど、友達のお母さんに悪いなって、仕事探したんですよ。先輩に『働きたい』って相談した先が原発をやってる会社で。とんでもないとこだったですけどね。まともなヤツなんて一人もいない。インチキばっかりなんですよ。なんかあったら、全部部下の責任にして……」
よくある上司の愚痴は、佐藤の言い分だけを聞く限り全面的に正しい。少年らしい、青臭い理想論のウラを取るほど、こちらもヒマではないので全面的に肯定して話を訊いた。
上司にぶち切れ、会社を辞めた佐藤を、いまの社長が拾ってくれたという。つまり佐藤が原発で働くことになったのは成り行きである。その割に、こちらが恥ずかしくなるほど、彼はいまの社長をべた褒めする。たとえば、弟と妹の進学にあたり、実家に金が必要になったとき、社長が黙って50万円を用意してくれたエピソードは、もう10回は訊かされた。
「別に金に転んだわけじゃないんですけど、学校行くのを諦めようってときだったから、すっごく嬉しかったです。その後も、いろいろ面倒をみてもらって、まだ半人前だし、これまた不謹慎かもだけど、今回の事故でちょっとは恩返しが出来たかもしれないって思ってます。