面白いと思いたい。とにかく面白いものを見せてくれ。テレビを見るとき、私はいつもそう思っている。
ただ、面白さにもいろいろ種類がある。多くのバラエティ番組は主にその場限りの瞬間的な笑いを提供することに特化している。それ自体は悪いことではないし、そういう笑いを人一倍愛している自負はある。
でも、世の中には笑える以外の面白さというのもある。人の話をじっくり聞いて、納得したり、共感したり、感心したり、驚愕したりするというのも「面白い」の中に含まれている。
だが、テレビではまだそういう感覚を味わえる機会が少ない。テレビはどちらかと言うと「瞬間的なにぎやかし」に特化していて、腰を据えて人の話を聞くのには向いていないからだ。
高確率でネットニュースになる番組
そんな中で『あちこちオードリー~春日の店あいてますよ?~』(テレビ東京)は、オードリーの2人がゲストの話をじっくり聞く貴重な番組である。業界人気が高いのも納得できる。
この番組は、テレビなのにテレビではないようなところがある。テレビ局の決まった放送枠で流されているので、定義上はテレビ番組に違いない。でも、そこで話されている内容は、ほとんどがテレビの枠組みの外側にある。
芸能人がテレビに出るときにどういうことを考えているのか。長く生き残るためにどんな戦略を練っているのか。どうしても不本意な仕事をしなければいけないとき、どういう思いでそれに取り組んでいるのか。そんな裏話が赤裸々に語られる。そのため、この番組で出演者が話したことは、文字に起こされてネットニュースになる確率もやたらと高い。
番組側がゲストに対して無理に過激な暴露話をさせようとしているわけではない。リラックスした雰囲気の中で、ゲストがついつい本音を漏らしてしまうだけなのだ。
「トークの手土産」は必要ない
もちろん、そうやって話しやすい状況を整えているのは番組側の演出である。そもそも現場にいるスタッフの数も少なく、密室感が強い。ほかのトーク番組と違って、ゲストは事前に話す内容について打ち合わせをしたり、アンケートを書いたりする必要もないのだという。
明石家さんまは、自分の番組に出演するタレントに対して「トークの手土産」を持ってくることを求める。テレビに出るからには、あらかじめ話すことを用意しておくべきであるというのだ。だが、『あちこちオードリー』では、ゲストが手ぶらで現場に入ることが許されている。