ナックル修得のために必要なものとは…?
ナックルの難しい点を挙げれば、枚挙に暇がないと吉田は苦笑しながら言う。
「他のどんな球種とも違う、まったくの別物なんです。まだまだ自分自身わからないことが多いのですが、一番難しいのは握り方で、ナックルの握りのままテイクバックして投げるのはなかなか大変でスムーズにいきません。またリリースポイントを安定させるのにも苦労しましたし、変化はまちまちで、まずストライクゾーンに集めるのが困難になります。私はナックルを投げるとき腕ばかり気にしていたんですが、やっぱりそれではダメで、全身をしっかりと使い切り再現性を高めなければいけません」
握力の有無はあまり関係なく弾くようにリリースをし、気象条件によっても変化が異なる。また、ナックルはボールのスピードが遅くても投げられると思いがちだが、吉田いわく「空気抵抗によって変化するので90キロ以下ではボールは不規則には動かないと言われています」とのこと。吉田のナックルの球速は95~100キロ、またウェイクフィールドは105~110キロだった。
こんな話を訊くだけでも習得することが非常に難儀であることは想像に難くない。ふと、ある選手の言葉を思い出す。学生時代にナックルを投げていた横浜DeNAベイスターズの山﨑康晃は、この“魔球”について以前こんなことを言っていた。
「ナックルはつきっきりで付き合わないと難しいボールだと思います。勉強して、練習して、関係を深める。これだけで勝負しようという強い覚悟がないといけないボールだと思いますね」
ちなみに山﨑は「指先の感覚が狂うから」とプロになってからは公式戦でナックルは投げてはいない。
テレビ番組で憧れのウェイクフィールドと対面
まさしく吉田は野球人生を賭ける価値があると考え、ここまでナックル一本にこだわってきた。初めてアメリカで挑戦した2010年、吉田はテレビ番組の企画で憧れのウェイクフィールドと対面している。
「本当に感動しました。これまでナックルを投げる人と出会ってなかったので、初めてキャッチボールでナックルを捕ったんです。ああ、こんな変化しているんだって。ウェイクフィールドさんには自分が投げているところを見てもらって指導していただきました。例えばナックルを投げる上で心掛けていることや、またどこを狙って投げているのか。そんなことさえ知りませんでした。キャッチャーのマスクめがけて投げているよと教えてもらったり、またコントロールで悩んでいたのでアドバイスを頂いたり。
ウェイクフィールドさんも最初から上手くいっていたわけではなく制球に苦しんだ時期もあったようです。そういうときは別の球種に頼りそうになったけど、自分を信じてナックルを投げつづけたという言葉は印象に残っています。諦めないで貫くこと。だからこそ200勝できたんだと思います」