亀井善行には「自分が死んだら棺桶に入れてくれ」と頼むほど大切にしているものがある。
それは亀井が外野手に転向した2007年から使い続けている、ミズノ製の外野手用グラブである。
亀井は愛おしそうな表情で「相棒」についてつぶやいた。
「もう、手のひらなので。僕の」
2009年にはゴールデン・グラブ賞を受賞している。あのイチローをもうならせた守備を支えたのは、今年で14年目に突入した愛用グラブだった。
「毎年新しいグラブを作っていただいているんですが、なかなかうまく型にはまってこないというか、今のグラブに勝てるグラブができないんです。本当に先から先まで神経が通っているようなグラブなので。『あれじゃないと出られない』という感覚です」
自分はレギュラーには向いてないなと思って
毎年のようにFAで大物選手が移籍し、MLBでの実績のある新外国人選手がやってくる読売ジャイアンツ。新しいもの好きに映る球団編成とは対照的に、生え抜き最年長の亀井が同じグラブを使い続ける事実は、アイロニーにさえ感じられる。
今季でプロ17年目、7月には39歳になる。亀井が入団した2005年以前より巨人に在籍している選手は、もはや誰もいない。
近年の亀井は脇役らしい発言が目立っている。
「自分のことよりチームが勝てればいい」
「黒子に徹する」
「最高のピースになりたい」
だが、そんな亀井はほんの2年前は規定打席にも到達したレギュラーだったのだ。
今季はFAで梶谷隆幸がDeNAから移籍し、来日のメドは立っていないものの新外国人のエリック・テームズも入団した。毎年、次から次へとやってくる強力なライバルをどのような心境で迎え入れているのだろうか。
率直に聞いてみると、亀井は神妙な表情を浮かべてうなずき、こう答えた。
「生え抜きがだらしないから、自分らがしっかりしないから補強するんだと思いますし、そこは受け止めないといけないなと。巨人というチームは常に勝たないといけないチームなので」
達観したような口ぶり。もはや在籍17年目にもなると、今さら感情がかきむしられるようなことはないのだろう。そう思いかけたところで、亀井は少し笑ってこう続けた。
「でも、1パーセントでも『またか?』という気持ちがないことはないんですよ。それもまぁ、受け入れてはいます」
チームが補強するのは自分のせい。理屈はわかる。だが、残酷な見方をすれば、チームは亀井を信用していないことの裏返しにもなる。そんなチームのために忠誠を誓う理由はどこにあるのだろうか。
亀井に聞いてみた。「いつから私欲を捨てたのですか?」と。すると亀井は穏やかな表情のまま、自身の葛藤を明かした。
「もちろん、ずっとスタメンで出たい気持ちは持ち続けています。でも、自分の場合はケガとの戦いのほうが長いので。やっぱり主力という選手は、1年間試合に出続けられる人。そこは正直言って、自分には向いてないなと思っていて。じゃあ、チームにどうやったら貢献できるのかといったら、脇でしっかりやるしかない。『何でも屋』っていうんですか。それができれば最高の控えのピースになると思うので。そう考えられるようになったのは、FA権を取って(2014年)、やっぱり年齢を重ねてからですね」