去年オフ、堂上直倫の名前をよく聞いた。最優秀中継ぎ投手賞に輝いた福敬登は「感謝してもしきれません」と口にし、吉見一起氏は「僕の引退試合でナオが同点タイムリーを打ってくれたんです。あの時はめちゃくちゃ感動しました」と打ち明けた。
10月27日。甲子園の阪神・中日22回戦。8回裏、1対1の同点で登板した福は自らの2失策で3失点KO。降板後はベンチに残り、次の投手のマウンドを見守るというルールがあるが、茫然自失の福はそのままロッカーへ消えた。
「スイングルームで素振りをしていた直倫さんが僕の名前を何度も呼んでいました。それでハッと我に返ったんです。すぐに引き返すと、『悔しいのは分かる。でも、応援しないと』と言われ、一緒にベンチまで戻ってくれました」と福。堂上は「チームで戦っているので。今後、福が後輩にきっちり教えてくれれば、それでいいです」と振り返った。言いにくいこともすぐに言う。チームファースト。それが堂上という男だ。
チームを思い、チームメイトを思う「優しくも、熱い男」
チームファーストの思いは時に体を突き動かす。10月21日。バンテリンドームの中日・DeNA20回戦。1点を追う7回裏に代打で登場したが、打球はサードゴロ。「とにかく勝ちたかった。必死でした」と言う堂上は1塁へ頭から飛び込んでいた。与田剛監督は「直倫のあの姿勢でガラッと雰囲気が変わった。諦めずに全力でプレーする、簡単にアウトにならないというのはチームに必要なこと」と称賛。直後の逆転劇を生んだ。
そんな堂上も選手ファーストになる日があった。吉見氏の引退試合だ。2点ビハインドの8回裏に代打堂上がコールされた。「おこがましいと思ったんですが、内緒で吉見さんの登場曲を使わせてもらいました。本当に良くして頂いたので。音楽が流れると、吉見さんの顔がたくさん浮かんできました。でも、打席は集中しました。とにかくランナーを返したかったです」。同点打を放ち、ベンチに戻ると、吉見と抱き合った。「あの時は最高に嬉しかったですね」と笑みを浮かべた。
チームを思い、チームメイトを思う。そんな堂上に今年の意気込みを聞いた。すると、改めて「優しくも、熱い男」だと認識した。
「やはり傍から見たら、レギュラー陣は決まりつつありますよね。よっぽど打たないと試合には出られない。だったら、よっぽど打ってやろうと思っています」
徐々に声は大きくなった。「レギュラーを獲ってやる。その気持ちが強いです。バッティングの感じはずっといい。それを継続しています」と腕を撫した。
「僕を一番分かってくれる人」への感謝
実は継続を支える裏方さんがいる。1歳年上の赤田龍一郎ブルペン捕手だ。「赤田さんとは小学校の名古屋北リトルで一緒だったんです。僕を一番分かってくれる人。2018年の秋から毎日、個人練習に付き合ってもらっています」と頭を下げる。
例えば、バンテリンドームでナイターの日は10時半頃に球場入りし、室内練習場で打撃投手を務めた後、メイングランドでロングティーのボールを上げる。遠征先では夕食後に新聞紙を丸めてボールを作り、部屋でティー打撃を手伝う。「フォームの変化とか細かい所に気付いてくれるので、とても有難いです」と感謝は尽きない。
継続しているのはバットを立てて構える打撃フォームだ。「元々はバットが立っていたんですが、プロに入ってどんどん寝て、何をやってもうまく行きませんでした。それなら、真逆のことをしようと、2018年の秋に思い切ってバットを立てて、胸の前まで持って来たんです。左右は違いますが、小笠原(道大)さんのイメージ。それを体に染み込ませるために赤田さんにお願いしたんです」と説明した。
新フォームの継続は2019年の開幕スタメンや12本塁打に繋がった。しかし、秋に右肘クリーニング手術を受けると、去年は右肩に違和感が生じ、開幕直後に腱板不全損傷で離脱した。「肘をやった後は肩に来ると言われていたのですが、これも自分のミス。去年、苦しんだ分、今年にかける思いは強いです」と前を向いている。
「毎日、一軍で戦う意識で準備しています。あそこは凄い場所。一軍の打席はそれまでの自分が全て出る場所なんです」