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「俺が死んだら棺桶に入れてくれ」巨人の生え抜き最年長・亀井善行が同じグラブを使い続ける理由

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/03/26
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今道に迷ったら終わりですから

 亀井が巨人に入って2年目、ある雑誌の取材でインタビュー現場に同行したことがあった。亀井はプロのレベルの高さについてこう力説していた。

「プロの世界ってすごい人ばかりだなぁ! と思いますよ。もっと経験年数を積めば、そういった気持ちも変化していくのでしょうけどね」

 そして、亀井はこう続けている。

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「早く自分もプロの世界で『亀井ってすごいなぁ!』と思われるようになりたいという気持ちが強くなってきました」

 その願望はもはや叶ったはずだ。ただし、亀井が若手だった時代から15年の時が経った今、プロ野球の世界はさらなる進化を遂げているように思えてならない。

 球速が150キロを超える投手が当たり前のように存在し、超人的なパワーで考えられないようなパフォーマンスを見せる野手も続々と現れている。「プロのレベルはますます上がっていませんか?」と尋ねると、亀井は深くうなずいた。

「明らかにレベルは上がっていますよね。僕の若手時代ももちろんすごかったんですけど、当時は自分の力がなかっただけで。今はスイングスピードや打球スピードも計れるようになっているじゃないですか。数字が年々上がっていっているので、時代は変わってきているなと感じますね」

 周囲のレベルは年々上がっているのに、人間の肉体は年齢を重ねるごとに衰えへと向かっていく。亀井自身は衰えを実感することはないというが、こんな本音もチラリとのぞかせた。

「周りから見ると肩が落ちてるとか、足のスピードが落ちてると思われているかもしれない。なんとかトレーニングして、維持していこうとは思っています」

 フィジカル的に充実した20代の圧倒的な力を前に、自分より上だと認めざるを得ない瞬間もある。亀井にとっては、同じ外野のポジションを争う松原聖弥がそうだ。

「松原の肩はすごいですよね。肩に関してははっきり言って負けたなと思うんです」

 それでも、と言って亀井は負けん気を滲ませた。

「安定感に関してはまだ負けていない。すべて負けたと思うと、気持ちが落ちてしまうので。できるだけポジティブに考えています」

 野球選手として老境に向かっている亀井が、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が棲む世界で戦うためにどんな覚悟を抱いているのか。そう問うと、亀井は少し考えてからこう答えた。

「もう、自分の考えを曲げないことですね。今迷ってもしょうがないし、ダメなら終わり。自分が考えていることが正解だと思って、やるしかない。今道に迷ったら終わりですから」

 個人よりチーム――。その思いだけで突っ走ってきた亀井に勲章がもたらされたのは、2020年7月9日のことだった。

 1000本安打達成。

「だいぶ時間がかかりました。もう恥ずかしいくらいですけどね。なんか16年目で1000という数字はどうなんかなと。でもまあ、節目なのでよかったです」

 37歳11カ月での達成は、球界3番目の年長記録だという。さらに通算100号本塁打にもあと2本と手の届く位置にいる。

 だが、亀井善行の視線の先にあるのは、その数字ではないだろう。

 鶴は千年、亀は万年。亀井善行の17年目のシーズンが、いよいよ始まった。

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