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「高額納税者番付」俳優・タレント部門で3位に躍り出た

 87年分の「高額納税者番付」俳優・タレント部門では、先輩の加藤(7位)を抜き、京マチ子に次ぐ3位に躍り出ている。この年には、東村山から車で約15分という三鷹市内に約3億円の一軒家を構えた。米国の音楽文化に惹かれた志村こだわりのアメリカンスタイルの豪邸だ。 

©︎文藝春秋

 だが、芸能界での成功を手にした志村にとって、“第2のホームタウン”と言えるのは、港区・麻布十番の街だろう。82年に新築マンションの一室を約4500万円で購入している。後に麻布十番を選んだ理由について、高校の後輩にあたる中山秀征との対談で、こう述べている。

〈ここは都会の下町ってよく言うけど、飲み屋も喫茶店も、なんとなく排他的なのね。よそ者は……みたいな空気でさ。俺は地元の人たちと仲よくなりたくて、たばこの吸い殻拾いやゴミ拾いを手伝った。麻布十番祭りの審査員とかもやったね。でも、それは仲よくなりたかったし、自分が好きでやっていたこと。それからはこの辺がなじみになって、以来ほぼ毎日、夕飯は麻布十番〉(「女性自身」13年12月10日号)

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 00年9月に南北線、12月に大江戸線が開通するまで、麻布十番は鉄道駅から切り離された「陸の孤島」と言われた。それ以前の最寄り駅である日比谷線六本木駅から喫茶店のアマンドの脇の坂を下り、麻布十番の広場まで歩いて15分かかる。

 駅から遠い、という地理的な条件が「排他的」と志村が評する空気を作り出してきたのではないか、と40代の商店主に尋ねると、「それもあるが――」と言って続けた。

「ここがほかの商店街と違うのは、お金があることです。昔の庄屋さんと同じで、それぞれ昔からの店の土地を高層化しているから、店の収益に頼らなくて済む。だからお店ものんびりしているでしょう」

「仕事、女、酒の“正三角形”が理想なんだよ」

 志村の性格にも合ったのではないか。小松政夫は「食事を一緒にしたことあるけれど、結構シャイであんまりモノを言わない人ですよ」と表現し、元マネジャーの一人も「遊び人に見えるけど、非常にシャイで自分から『皆で飲みに行こう』とは口にしない」と口を揃える。

 何度か酒席を共にした、みのもんたもこう振り返った。

「上品な大人の飲み方をする人だし、泥酔するまで飲むということがなかった。だからお店のお姉ちゃんたちにもモテていましたけどね(笑)」

 志村自身、メディアの取材によくこう答えていた。

「僕は芸能界は好きだけど、芸能人ってあまり好きじゃないんですよ」

志村けんさん

 恥ずかしがり屋の志村にとって、いったん内側に入れてもらえれば外から不用意に闖入者の入ってこないこの町が心地よかったのだろう。

 麻布十番で飲む酒に、志村はお金を惜しむことがなかった。

〈僕は金には執着がない。やっぱり、入ってきたものはきちんと排泄しないと回ってこないと思うんだ。10入ったら、8遣って、2は税金を払う(笑)〉(「CIRCUS」05年4月号)

「だいじょうぶだぁ」の仲間たちや、商店街の顔見知り。安心できる仲間と飲む酒代は自分で払い、払わせることはしなかった。自らの冠番組に出演した若い女性タレントらと飲む姿もよく報じられたが、彼女たちもいわば“身内”だったのだろう。「朝4時、5時まで飲むと、お付きの運転手がハンドルを握るロールスロイスで三鷹の家に帰っていた」と前出の元マネジャーは証言する。

 過去には、女優・いしのようこら共演者との同棲も報じられたが、独身を貫いた。「家で待ってくれる人がほしい、子供がほしい」という寂しさを吐露する一方、周囲には「女とは6年、7年も付き合うものじゃねえ、3年で充分なんだよ」と強がりも言い、関係が安定すると、仕事にのめり込むのが常だった。

「仕事、女、酒の“正三角形”が理想なんだよ」

 志村はよくこう語っていたという。