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本人が体育の授業に出ていないのに授業の愚痴をつぶやく

 優等生でキラキラしていたハルカが、裏アカでこっそりドス黒い本音を吐き出している。次第にクラスメイトたちには、そのようにしか見えなくなってしまったのだ。

 仲のいい友人たちにその裏アカについて聞かれたハルカは「そんなツイートはしていない、偽モノだ」と必死に否定したが、ますますその裏アカが彼女本人のものに間違いないと周囲に受け取られ、部活でも教室でもハルカは孤立してしまった。

 次第に学校に行くことができなくなり、別の教室で自習するようになったハルカが、阿部のもとに相談に訪れたのは、この頃だった。

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いじめ探偵・阿部泰尚氏

「まずはSNSをやっている周囲の生徒たちをハルカから聞き、リストにしました。今の若者はスマホ操作に慣れているとはいえ、まったくの同時刻に2つのツイートを同時に送信できるとは考えにくい。こうして、犯人と思しき生徒を3人ぐらいに絞っていったんです」

 いじめが深刻化するにつれて、ハルカはSNSに投稿をしなくなったが、それでも偽の裏アカは活発に投稿を続けた。だが、本人が体育の授業に出ていないのに授業の愚痴をつぶやくなど、徐々にボロも出始めていた。

 ハルカは学校の教師に相談したが、教師たちはツイッターで複数のアカウントを持てることも知らなければ、アプリなしでもブラウザから投稿できることも知らなかった。

スマホを取り上げて証拠保全

 疑わしい人物3人のうち2人はもともとSNSをあまり使っていなかったので、犯人はフミ(仮名)に絞られた。彼女は、ハルカとは対照的に地味なタイプだった。

 放課後、阿部がフミを尾行すると、友人とともにファストフード店に入っていった。距離をとりながら監視を続けていると、フミがスマホを取り出して、偽アカウントの操作を始めた。決定的瞬間だった。

「お前だろ、なりすましの犯人は!」

 阿部はその場でフミのスマホを奪い取った。フミは困惑し、わめいた。

「はぁぁ? 意味わかんないんですけど! 私じゃないんですけど!」

「これ、あなたのスマホだよね? ハルカに謝ったほうがいいんじゃないの?」

 会話をしながら、その様子を証拠にするため、阿部は動画で撮影した。一緒にいた友人たちは「え、マジマジ?」とざわついていたという。フミは観念して騒ぐのをやめて、呆然とした様子で足を小刻みに震わせていた。

「『キラキラしててムカついた』というのがフミの動機でした。ハルカと周囲の関係がギクシャクして、転落していく様子が面白くてやめられなくなっていったみたいです。真犯人だとバレて、フミはすぐに別の学校へ転校しました。クラスメイトたちはハルカに謝罪して誤解は晴れましたが、友人関係は元通りというわけにはいかなかったようです」

 ハルカはその後、ツイッターのアカウントはすべて削除した。インスタグラムは使っているが、嫉妬の恐ろしさを知った今は、キラキラした投稿は一切やめたという。

(取材・構成:西谷格)