開幕から2引き分けを挟み6連敗。どうなることかと思ったが、その後は3勝1敗(8日終了時)と持ち直してきたベイスターズ。8日の中日戦では同点の9回一死一、三塁で宮崎がサードゴロ。これで万事休す……とその瞬間、高橋周平のエラーでラッキーな勝ち越し点。さらに倉本、戸柱の連続タイムリーと、いにしえのマシンガンを彷彿とさせるダメ押しで終わってみれば5-2の快勝。ルーキー牧の破壊力に加え、畳みかける攻撃ができる今年のベイ打線は去年までとは違う意味で頼もしい。
AMラジオを駆使するほかなかったあの頃
今やスカパーやDAZNで全試合の中継映像が観られるわけだが、ナイターの時間に原稿を書くことが多い筆者はradikoアプリでラジオ中継を「ながら聴き」している。この日はバンテリンドームなのでCBCラジオを選局した。解説は川上憲伸さん。中継が中日寄りなのは当然として、憲伸さんのしゃべりはベイスターズファンから見ても面白いのだ。
例えば、この日なかなか調子が上がらない横浜の先発・平良評はこんな感じである。
“今日は本来の平良じゃない。打者ではなく自分と戦ってますよ”
“(中日打線が)捉えられないのがもったいない”
“今日は横浜に流れていないから言いますけど、(平良は)ダメでしょうこんなピッチングじゃ”
いやこれ横浜ファンも結構聴いてるから……というのはさておき、平良の本来の投球を熟知しているからこそシビアに状態を見極め、そのうえで中日打線の不甲斐なさをボヤく。フリーダムなしゃべくりの合間に横浜バッテリーの配球をズバズバ言い当てるし、明治大学の後輩・伊勢の投球を褒めた途端に福留にタイムリーを打たれた。憲伸さんの解説は褒めとボヤキと分析力のバランスが絶妙で、オチのつき方まで完璧なのである。
試合内容もさることながら、こういう解説に出会うとラジオ中継も野球の魅力のひとつだなあと思う。ましてや、本来は東海地方でしか聴けない放送である。これが月額385円でradikoプレミアム会員になれば、全国どこにいてもスマホで聴けてしまう。
配信もCS放送も一球速報もない時代、家にいながらにしてホエールズやベイスターズの試合を追いかけるにはテレビとラジオしかなかった。筆者がファンになった1980年代中頃はまだ衛星放送(BS)すらない時代だが、その分地上波の野球中継が充実していた。巨人戦は後楽園も横浜スタジアムも全試合確実に観られたし、巨人戦以外のホームゲームは神奈川国営放送局ことTVKテレビがばっちりカバー。TVKは当時サンテレビの中継もネットしており、甲子園の阪神-大洋戦もたまに流れていた。
巨人戦以外のほとんどのビジターゲームは、AMラジオを駆使するほかなかった。筆者は小学6年生の頃、1986年にお年玉をはたいてラジカセを購入するのだが、これが一気に世界を広げてくれた。当時住んでいた三浦半島西部は西側に相模湾が開けているおかげか、夜ラジオのダイヤルを回していると、西日本方面のラジオの電波が入ってくることに気が付いたのだ。
“今夜の毎日放送ダイナミッ……イターは甲子園球……阪神対大よ……”
雑音まみれだけど大阪のラジオが横須賀でかすかに聴こえる。すげえ! 興奮した筆者は、ちょうどその頃『月刊ホエールズ』に掲載された各地のラジオ局の周波数表を頼りにホエールズ戦遠距離受信を試みるようになった。ナゴヤ球場はCBCラジオ1053kHzと東海ラジオ1332kHz、甲子園はABC朝日放送1008kHzとMBS毎日放送1179kHz、広島市民球場はRCC中国放送1350kHz。ラジカセのチューナーの目盛り部分に各放送局の目安となる印をつけ、ナイターの時間になると窓際にラジカセを置き内蔵アンテナの向きを変えつつダイヤルをいじる。クリアに聴ける東京のラジオ局で「他球場の途中経過」を知るよりも、自力でホエールズの戦いぶりを聴きたい。子供なりに必死だった。
大抵、東海ラジオや毎日放送はかなりの確率で受信できる。しかし朝日放送やCBCラジオはダイヤルの近くに出力の大きいTBSラジオ(954kHz)があり、その音が増幅されてなかなか受信できない。横須賀からかなりの距離があるRCCラジオも早い時間は厳しく、夜9時頃になるとようやく微かに聴こえてくる。その後AMラジオは電波の性質上冬場の方が遠距離受信しやすいことを知るのだが、生憎冬にプロ野球はやっていないのだ。そんなチマチマと試行錯誤していた頃を思うと、月にコーヒー1杯分の値段でサクッと日本中のラジオが聴ける今の状況は只々ありがたい。