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「一輝はマジメすぎるから…」ベイスターズ ・三嶋一輝の考えを変えた三浦大輔の言葉

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/04/03

 打たれた瞬間「えっ、このタイミング!?」と声をあげてしまった。言霊というか、自分を追い込むのが早いというか……。いずれにせよ三嶋一輝らしいな、と思わずにはいられなかった。

 昨季の7月末にDeNAのクローザーに抜擢されて以来、三嶋はセーブシチュエーションで同点弾を食らうことはあっても、救援に失敗し黒星を喫することはなかった。18セーブ、防御率2.45。抑えとしては抜群の安定感を見せてくれた。

やられたら、当たり前にやり返せ!

 春季キャンプ前、三嶋と話す機会があり今季も起用濃厚のクローザーについて尋ねてみた。三嶋は「一番いいピッチャーが任されるポジションだと思いますが、もし抑えをやるのであれば、今シーズンも中継ぎのひとりとして9回を投げるといった感覚ですね。けど僕だけじゃなくビハインドでも投げる中継ぎにも注目してもらいたい」と、いつものように謙虚に言葉を選んだ。そして、少し険しい顔をしてつづけた。

「昨シーズンはクローザーをやって同点に追いつかれることはありましたけど、逆転されることはありませんでした。クローザーとしてそれを経験して、乗り越えて初めて見えてくることがあるのかなって。あそこで投げる以上、いずれ来ることだとは覚悟しています」

 その“いずれ”は、早くも巨人との開幕戦でやってきた。7対7の同点で迎えた9回裏、三嶋がマウンドに上がった。セーブシチュエーションではない同点の場面、本来であれば登板のタイミングではないが、今季は9回打ち切りの特別ルールにより、負けないために抑えの三嶋が起用された。

 開幕戦は同点で終わりか、と思っていた刹那、DeNAの天敵である代打・亀井善行に投じたスライダーが内へ甘く入り、ボールは放物線を描きライトスタンドへ。わずか3球で三嶋は、クローザーとなり初のサヨナラ負けを喫してしまった。

 予言していたことが現実となる。引きが強いなと思ったが、来るべき悪夢を想定していた三嶋の強さはここからだ。普通のピッチャーならばメンタル的に厳しくなるが、彼がここまで見てきた地獄は並み大抵のものではない。2013年のルーキーイヤーこそ6勝9敗で終え次期エースと目されたが、2年目に開幕投手に抜擢されて以降、三嶋は調子を崩し芳しい成績を残せずにいた。結局、2年目から2017年までの4年間で、先発としてわずか7勝(9敗)しか挙げることができなかった。2017年のシーズン途中から中継ぎへ転向したが、周囲から「もう厳しいのではないか」という声が三嶋の耳に届き、そのたびに悔しくて唇をかみしめた。チームで一番の負けず嫌いの男は、辛酸を舐め、塗炭の苦しみを味わい、プライドをかなぐり捨て敗戦処理からスタートしコツコツと信頼を積み上げると、昨季はついにクローザーまで上り詰めた。

三嶋一輝と三浦監督

 中継ぎになった当初、三嶋は口癖のようにこう言っていた。

「今日を抑えて、明日を掴む――」

 だから強い。メンタルの耐性はもちろん気持ちの切り替えもできるようになった。

 サヨナラ負けから2日後の巨人戦、再び同点の9回裏に三嶋の出番が訪れる。今度は外角をいっぱいに使い、フォークと153キロのストレートで3球三振。気合十分にマウンドから降り、キャッチャーの返球を受け取る三嶋の姿は、救援失敗を乗り越え違う世界を垣間見た、たくましさに溢れていた。答えを出せる男こそ三嶋であり、新指揮官の三浦大輔監督も「しっかりやり返した、気持ちの入ったナイスピッチングだった」と評価した。