選手の三浦さんと三浦監督は違う人間
やられたらやり返す、といった攻めの姿勢といえば三浦監督の現役時代を想起する。当時は「打たれた借りはマウンドでしか返せない」といつも語っており、その精神性は間違いなく三嶋に引き継がれている。というのも三嶋にとって三浦監督は、一番目を掛けてくれた先輩であり、公私ともに良好な関係を築いてきた大切な存在だ。
忘れられない言葉がある。苦しんでいた若い時期、掛けてくれた一言で考え方が変わったと三嶋は教えてくれた。
「マジメすぎるのはダメだって言われたんですよ。『一輝はマジメすぎるから、もっと自分を出していいと思うし、もっと馬鹿になってもいいんじゃないか。もっとオマエは堂々としていていいよ』って。その言葉はすごく心に残っていますね」
つまり大胆になって、自己主張しろということなのだろう。敬愛する先輩の言葉を忠実に守るように、年を追うごとに三嶋はチーム内で存在感を高めていった。
そういった観点からすれば、三嶋にとって三浦が監督に就任したことは、やり易さも含めプラスに働くのではないだろうか。
「いや、そこに甘えるつもりはないですよ」
そう言うと三嶋はかぶりを振った。
「たしかに一番お世話になって手本として身近にいた先輩ですけど、それは選手としての話で監督となれば別問題。仲良かったからどうこうではなく、むしろ逆に厳しくしてもらいたい。よく『仲がいいからよかったね』みたいなこと言われるんですけど、全然わかってないですよ。選手の三浦さんと三浦監督は違う人間。三浦さんのためというよりも監督のため、そしてチームのためにいいパフォーマンスをしたいという気持ちだけですよ」
なれ合いは必要ない。男らしく筋を通すところも、また三浦監督の薫陶を受けてきた人間らしい。明言せずとも「三浦監督を胴上げしたい」という気持ちは痛いほど伝わってきた。開幕から勝てない状況がつづいており、三嶋もきっと焦れているに違いない。
そういえば正月明け、三嶋はブルペン1年目の伊勢大夢を厚木で行われる恒例の自主トレに誘った。三嶋に憧れている伊勢は喜んで参加し、ともに汗を流した。かつて1年目の三嶋が三浦から自主トレに誘ってもらったときと同じように――脈々と受け継がれる“ハマの番長イズム”。
多くの若い投手が三浦監督の影響を受けているが、義侠心があり誰よりも負けず嫌いでハートが強く、そして優しく面倒見がいいということを鑑みると、三嶋は“ハマの番長イズム”の後継者といっていいかもしれない。
そういえば若手投手たちに三嶋の印象を尋ねると、声をそろえるように「優しいっスね」という。そのことを本人に伝えると「まあ、そうでしょうねえ」と照れを隠すようにニヒルに笑った。誰からも頼りにされる男は、いつの世もどこかシャイで心優しいものである。
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