施設の古さが払拭され、先進的でサステナブルなマインドが見えてきた
物事は何でも捉えかた次第。ほとんど同じものであっても、気分一新すれば前向きに見えてくるものです。「ダラダラとつづく上り坂で無駄に疲れる」と思っていたコンコースも、気分一新すれば「坂道の散歩は健康に良さそう!」と思えるようなもの。自前の酒だって「どぶろく」と呼べば悪そうに聞こえますが、「クラフトビール」だとオシャレのホームラン王のように聞こえます。「山小屋」ではなく「グランピング」。「隙間風」ではなく「高い換気能力」。「土台は変わっていない」ではなく「面影を残した」。「おかわり」ではなく「食品ロスを出さない」。「よくばり」ではなく「食品ロスを出さない」。言い方ひとつで気分も変わります。
新生メットライフドームでの試合観戦、山賊イメージを取り除いて選手たちを見たときに気づいたのです。我らが誇る選手たちは「太っている」のではなく「ボディポジティブ」を謳歌していたのだと。
長年、埼玉西武ライオンズは太っている選手を趣味で集めているのだと思ってきました。中村剛也、山川穂高、森友哉、中塚駿太、平良海馬、渡部健人……デーブ大久保さんとドミンゴ・マルティネスの呪いか何かなのかなと思っていました。そうではなかったと今は思います。現役最多のホームランを打つ中村剛也の豪打や、柳田悠岐をもねじ伏せる平良海馬の剛球、すなわち野球能力はそもそも体型で縛られるものではなく、体型で選抜しないからこそこういう集団になったのだと。
かつてヤクルトスワローズの古田敦也さんが、「メガネ」を理由に大学卒業時のドラフト会議で指名漏れしたといいます。視力が悪いよりは良いほうがいいのでしょうが、スポーツ用メガネで矯正できるならちゃんとプレーはできるし、野球能力は発揮できます。大きな傾向としてメガネの選手はいらないという色眼鏡ではなくて、ひとりひとりの個性に向き合うことで、今までとは違ったものが見えてくる。それが多様性の尊重であり、すべての人が前向きに過ごしていくための心持ちです。
埼玉西武ライオンズは、もしかして他球団に先駆けてそのことに気づいていたのかもしれません。体型に縛られず、どんな野球能力を発揮できるのかを根っこに据えた結果、「同じくらいの能力なら締まってるほうにするか」という他球団と棲み分けされ、自然と、悠々と、ポジティブボディの持ち主たちを獲得することができたのかもしれない、そう思います。
今や心ないインターネットですら「西武が指名するならスゴイんだろう」と体型に関する色眼鏡を外して、期待をもって見ていただけるようになりました。実際にその期待に応え、昨年のドラフト1位・渡部健人は「ファーム8試合で5発(※4月9日時点)」「1軍で初出場・初安打・初本塁打・初ヒーロー」をやってのけました。「太っているほうが打球が飛ぶ」説まであります。これまで施設の古さと山賊イメージで隠されていましたが、実は埼玉西武ライオンズのマインドは先進的だったのです。
もっと広く、もっといろんなところで、「太ってる⇒やりそう」という埼玉西武ライオンズのボディポジティブマインドが定着していってほしいもの。そして、埼玉西武ライオンズはさらに一歩先の未来へと前進していってほしいと思います。
「ボディポジティブ」のほかにも、本記事中にさりげなく仕込まれた「エアコンいらず」「虫や鳥はイキイキしている」「残さず喰らう」「リノベーション」「ヴィーガン」「脱・プラスチック」などのサステナブルなキーワードは埼玉西武ライオンズが目指すビジョンです。これは冗談ではなく、実際に埼玉西武ライオンズでは「SAVE THE EARTH Lions GREEN UP!プロジェクト」を立ち上げ球場内廃棄物のリサイクルを進めているほか、100%自社の太陽光発電によるレオライナーの運行でCO2排出を減らした観客輸送に取り組むなど、サステナブルなアクションを起こしています。
単に山のなかに球場があるのではなく、自然と共生して持続可能なエンターテインメントを追求する、それが埼玉西武ライオンズの挑戦であったのです。遠隔地に球場を建てて電車賃で稼いでやろうとする嫌がらせではなかった。心ないインターネットの皆さんも心の色眼鏡を外し、サステナブル球団・埼玉SAVE THE EARTH ライオンズの先進的挑戦を見守ってください。そのうち始球式でグレタ・トゥーンベリさんとかが出てくるかもしれませんよ。「この球場がクソ暑いのは地球温暖化のせいです(怒)」みたいな建付けで!
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