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 彼女の妊娠は養護教諭から母親に伝えたが、「中絶費用を払えない」と突き放された。結局、養護教諭が支援団体の協力を取り付けて費用を工面した。

 養護教諭は他校の養護教諭らと交流している実感として、こう懸念する。

「どこの学校でも命に関わるようなことが起こっているし、今後も起こりうると感じます」

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 あるベテラン養護教諭は、「コロナ禍で追い詰められる高校生には二つの傾向がある」と教えてくれた。

「死にたくないです」と口にしながら自殺した

 一つ目の傾向は、家庭不和を抱えた子たちだ。

 コロナ以前から家庭に難がある子はいたが、これまでは学校や友人関係、アルバイト先など逃げ場があった。ところが学校が長期休校となり、その後もステイホームが奨励される状況が続くことで、子どもたちの逃げ場がなくなった。また、在宅勤務の両親の仲が悪化するのを目の当たりにし、心身の不調を訴える生徒が増えたといった声も複数の高校で聞かれた。

 もう一つの傾向は、もともと情緒が不安定だった子たちだ。

「彼に関しては、コロナがなければこういう顛末にはならなかったと言い切れます」

©共同通信社

 こう語るのは、元生徒の男子を自死で喪ったある公立高校の養護教諭だ。

 男子は3年生になる頃にうつ病を発症し、昨年末に進路未定のまま卒業した。養護教諭や教員らは、彼を気にかけ、継続支援していくことを決めていた。だが、コロナの感染拡大と彼の卒業が重なり、なかなか会えない状況が続いた。養護教諭はその間も電話やメールを重ねたが、「本人の孤立感が増しているように感じた」という。

 彼は死の直前、養護教諭に「この先、生きていても何の楽しみもない」と口にしつつ、こうも述べていた。「自分が衝動的な行動に出てしまうのが怖い。死にたくないです」

 養護教諭は言う。

「死にたくないのに、先が見えなさすぎて衝動的に死に至ってしまった。彼に限らず、そういう子が今、たくさんいるんじゃないでしょうか」

出典:「文藝春秋」4月号

「文藝春秋」4月号および「文藝春秋 電子版」では、「高校生の自殺がなぜ増えているのか」と題したルポを掲載。安定した高校生活を送っていた子が漠然とした不安に呑まれるケースや、コロナ禍に隠された性的虐待、そして生徒を自死で喪った教員の悲痛な訴えなどを紹介している。未曾有の事態に翻弄されながらも、保健室で子どもたちを受け止める養護教諭の声には、子どもの命を守るためのヒントが詰まっているはずだ。

文藝春秋

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高校生の自殺がなぜ増えているのか