ずっとひとりで生きてきたねこが初めて知ったこと
白い鳥をなんとかかたせてあげたい、ピッチングマシンにまたなげさせてあげたい。そう強く願いましたが、ねこにはどうすることもできませんでした。やがてスタジアムには、うとうとする酔っ払いのおじさんの代わりに、たくさんの子どもたちがやってきました。子どもたちのお父さんとお母さんもやってきました。男の人も女の人もやってきて、寂しそうなスタジアムがだんだん元気になっていきました。みんながしゅんとする回数も減っていきました。そしていつのまにか、青い壁に住んでいた白い鳥は消え、物置き場のピッチングマシンはどこかに運ばれていきました。
笑い声は増えたのに、ねこは、とても悲しかったのです。「勝ち」も「負け」もわからないねこですが、白い鳥とピッチングマシンはねこの仲間だったから。一緒に泣いた仲間だったから。仲間を助けられなかったことが、ねこはとても悔しかったのでした。大きな鳩だって、ネズミだって仕留められる、すばしっこくてたくましいねこ。ずっとひとりで生きてきたねこ。だけどねこは、このとき初めてひとりではできないことがあると知りました。ひとりではできないことが「勝ち」と「負け」なのだと知りました。
ねこは今もスタジアムにいます。ときどきたまらなくなって、スタジアムの真ん中に飛び出していきます。そのときはいつも、あの白い鳥とピッチングマシンのことを思うのです。だってこれからもずっとねこの大事な大事な仲間なのだから。
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