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30代で生え際が後退、自信がみるみる消えて…「薄毛」で悩んだ私が息子に伝えたいこと

2021/04/13
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悩ましかった毛髪と自ら決別することで出会った新たな自分

 ハゲを食い止めるのではなく、いっそのこと押し進めてみよう。

 そう決意してバリカンを購入して中途半端だった毛髪をすべて刈る。すると、首から上のアクセントがなにもなくなった気がしたので、コンタクトレンズを外して、十数年ぶりにメガネを掛けた。毛髪とは打って変わってヒゲは元気が良いので、さらなるアクセントとして軽く伸ばす。天パをふくめ、なにかと悩ましかった毛髪と自ら決別することで出会った新たな自分。断捨離は毛髪に関しても効くのだ。

 40代後半の現在、髪にまつわるすべてが解決したわけではない。固い毛が立つようにして生えており、まだ白髪になっていない側頭部が、まるで黒い便座をハメているようで悪目立ちするのだ。

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 これが頭を丸めて以降の大きな悩みであるし、夏の日にサングラスを掛けて歩いていた時に高校生の一団に「♪走る~走る~♪俺たち~♪」と爆風スランプの『Runner』を笑われながら歌われたこともある。「時代を考えて、せめてライムスターの曲にしろよ」と思いつつも、胸の中で大きく剥がれるものがあった。

3年前に家族写真と併せて撮った遺影。髪の悩みは消えたと思っていたが、今度は便座を載せているように見える側頭部が気になりだした。©平松市聖

〈どうすればハゲないか〉ではなく〈どうハゲるか〉

 誰も俺のことなんか気にしていないし、ましてや頭や髪なんぞ見ているわけがないに決まっている。自分も他人の頭や髪がどうであろうと気にしたことがないし、単に自意識過剰なだけなのは百も承知。中途半端なハゲだったら刈ってしまったほうがいいのもわかってはいた。

 他人のことなんて気にしたことがないと書いたばかりだが、ついつい目をやってしまう類の者たちがいる。それはハゲに抗うハゲ。いつかの自分だ。

 M字型ハゲが進行しているにもかかわらず、執拗に前髪をキープして前はあるのに脇がスカスカになっている者。金髪や銀髪にして頭皮と溶け込ませようとする者。ソフトツイストパーマをかけてチリチリにすることでごまかす者。

 健やかな毛を持つ者にとっては滑稽に見えるかもしれず、俺自身、〈どうすればハゲないか〉ではなく〈どうハゲるか〉を一緒に考えよう、などと声掛けをしたくなる。だが、そんなことは間違っても言えない。そもそも大きなお世話だし、そういった面においても人をウジウジさせてしまう〈なにか〉が髪にはあるのだ。

近影。黒い便座を被っているように見えていた側頭部は、バリカンの刃を1ミリにして2~3日おきに刈り込んで目立たないように。©石川啓次/文藝春秋

 俺には、3歳になる息子がいる。ハゲるかどうかはわからないが、思いっきり天パである。もうひとつも受け継いでいるかもしれないが、親として彼が髪で苦しまぬよう、身をもって〈どうハゲるか〉導いていきたい。

30代で生え際が後退、自信がみるみる消えて…「薄毛」で悩んだ私が息子に伝えたいこと

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