昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

「若いうちはそうしたがるものさ。でも、あまり役の感情を深掘りしすぎると…」アンソニー・ホプキンス83歳が語った演技術

言霊USA「When we look back on our lives, it's as if somebody else had written the novel of our lives.(人生を振り返ると、他の誰かが書いた物語のようだ)」

2021/04/24

生きるということは聖なる奇跡

 ホプキンスは40代の頃、父の死を看取った。

「あの日のことは今でも覚えている。私は外に出て、ウェールズの故郷の町ポート・タルボットの公園を歩いた。いつの間にか春になっていて、桜の花が満開だった。私は『ようやく終わりました』と神に感謝した。父の人生の幕は閉じたが新しい命のステージが始まっている。それは私の目を開いてくれた。いつの日か私も死ぬだろう。そして桜は咲く。それが人生だ。命はそんな風に移り変わっていくんだ」

 人生は謎だ、だから素晴らしいとホプキンスは言う。

「この年まで生きて、だいぶ賢くなった。自分が何も知らないことがわかるくらいにはね。人生はまったくミステリーさ。

 去年、妻のステラが偶然、私の子どもの頃の学校の先生に会ったんだよ。彼はもう90歳を過ぎている。で、妻は私がどんな子だったのか尋ねた。先生はこう言った。『アンソニーはあまり出来のいい生徒ではなかった。でも、それが突然、俳優の道を目指し、頂点に上り詰めたんだ。いったいどうして?』

 私自身、どうしてかわからない。誰かに使命を与えられた感じだ。私の意志じゃなくね。たしかショーペンハウアーがこう言ってた。『人生を振り返ると、まるで他の誰かが書いた物語のようだ』まったくそう思うよ。

 それが神なのかどうかわからない。でも、生きるということは聖なる奇跡なんだ。今朝、目覚めて、今、こうしているだけで驚くべき体験なんだ。

 今の私は満ち足りて、人生の安らぎの時にある。それもいつか終わるものだと知っている。あともう少し生きたいと願ってはいるが。

 この、ロックダウンという異常な状況でも、それを最大限に楽しもうとしている。ピアノを弾いたり、油絵を描いたりしてね」

◆ ◆ ◆

イラスト=澤井健

INFORMATION

映画『ファーザー』
5月14日(金)、TOHOシネマズ シャンテ他 全国ロードショー
https://thefather.jp/​

この記事の写真(3枚)

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

週刊文春をフォロー
z