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都内の大学病院からは悲鳴が

 だが、もう幸運はそう何度も続かない。このレポートにも記したが、すでに都内の大学病院からは、「これ以上、重症者向けのベッドを増やすことは人員的にも限界がある」という声が聞こえてくる。これ以上、医療体制を強化するならば個々の病院にお願いするだけではなく、地域のなかで病院間連携を強化しなければ、病床数は増えない。そして、そのために必要なのはオペレーションに特化したスタッフを用意することだ。

 今年2月、重症者の治療にあたってきた名古屋大学病院の集中治療専門医・山本尚範は、私の取材(ニューズウィーク日本版 3月2日号『医療非崩壊』)に対して、こんなことを語っている。山本がここで説いているのも、災害医療の知見に即した本質的な意味での「トリアージ」だ。彼は「トリアージ」という言葉を「命の選別」と言い換えるのは間違いだと強調した上で、こう語った。

「疾患にかかわらず、救える命を救うことを最優先に据えることがトリアージの本質です。現状の体制は明らかに機能不全を起こしています。あえて強い言い方をしますが、このくらいの患者数で、救急搬送困難というのはあってはならない。日本の状況で、医療崩壊が起きているのならばそれはシステムがおかしいのです。

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重症病床はいくつある?

 必要なのは地域の実情にあわせて、医療供給体制整備の指揮命令系統を整えること。これは高度なオペレーションでまさに専門領域です。政府の新型コロナ分科会には感染症疫学や公衆衛生の専門家はいますが、医療供給体制整備を指揮できる専門家は不在のままです。政府や行政は現実離れした病床確保計画を打ち出す前に、指揮命令系統を整える必要があります」

 今年3月になり、厚労省アドバイザリーボードのメンバーにようやく、神奈川DMAT(災害派遣医療チーム)を率いた阿南英明・神奈川県医療危機対策統括官が加わったが、もっと早く知恵を借りる必要があった。

「東京は大丈夫」と言える根拠はない

 病床は確保できていることはまずもって重要だが、病床があるというだけでは意味はない。普段は空けていてすぐにでも使えるのか、もしくは普段は新型コロナ患者以外で使っているが、いざとなればすぐに病床の転換やスタッフの配置はスムーズにできるのか。そして何より、すべてを把握して陣頭指揮を取れる人やシステムはあるのか。

 東京都に取材を重ねても最後まで、「東京は大丈夫」だと言える根拠はまったく見えてこなかった。

 小池都政は、強烈な小池批判を繰り返したタレントへの抗議には熱心だ。「国」「緩み」「若者」と、感染を広げている「誰か」を作り出すことにも熱心だ。だが、こちらも取材をいくら重ねても、多くの専門家を集めている割には、良い要素はさほど見つからず、「災害対応」はうまく機能しているとは言い難いものだった。第4波でどんな現実を突きつけられることになるのか。次の危機までに東京に残された時間は、少ない。

出典:「文藝春秋」5月号

 石戸諭氏による「小池百合子のコロナ対策を再検証する」は「文藝春秋」5月号および「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

文藝春秋

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