日本一周を決意した理由
――作中でシャーク小笠原が「50歳目前にして、引き返すことのできない道を歩んでしまったのでは」と背筋を冷やしたあとに、「そうだ、日本一周してみよう」と突然思い立つシーンがあります。その決意をした際の心境とはどういったものだったのでしょうか。
小田原 実はこれに関しては「シャーク小笠原が話の最後で“日本一周しよう”と決意する」というオチを思いついたのが先だったんです。僕自身、軽自動車のNバンを新しく買ってから「日本一周したら面白いかもな」っていうのは、ぼーっと考えていたんですけど、実際にしようとは思ってなかったんですよ。
で、シャーク小笠原が今の生活に行き詰まって、閉塞感を感じて、そういうオチにしようと思いついてこの話を漫画に描いたんですが、この漫画はセミドキュメンタリーなので、漫画に描いたからには実際に行かないとだめじゃないですか。だから仕方なく日本一周を始めたんです(笑)。
そんなこともあって、行く前は正直あんまり乗り気じゃなかったんです。「めんどくさいこと描いちゃったなぁ」とか思って。日本一周なんて大変だし、時間もめっちゃかかるし、原稿も車内で描かなきゃいけないし、本当にできるのかなって思ってました。
実際に、しょっぱなから不安になる出来事もありましたしね。日本一周は3月28日の夜から始めるつもりで、同日にYouTubeの番組配信内で僕の日本一周を見送ってもらってから出発するつもりだったんですが、その日、僕ちょっとしんどくなって家に帰っちゃって(笑)。日本一周の旅の初日は自宅で寝て、実際には翌日の29日に出発しました。
――幸先不安になりますね(笑)。
小田原 でも、実際旅に出てみると、正直言って楽しいです。「めっちゃしんどい」ってこともないですし、昼間に富士山の見える高原で車を止めて、原稿描きつつもベンチに座って焼きそば食べたりしてると、「自分は今、人生においてかけがえのない瞬間を過ごしているんじゃないか」っていう喜びが湧いてくるんです。
それに、実際にその土地に行ってみたら分かることって結構あって。スーパーの品揃え一つ取っても、その土地土地の名産品が並べられてて、港の近くだったら新鮮なマグロが売ってたりとか、そうしたちょっとした変化も楽しいんですよ。