「社会の摩擦を減らすための規範の調停」とも解説されるポリティカル・コレクトネス(政治的公正さ)。この考え方が広がったことにより、「言葉」に対する問題提起が増えている。(執筆=小松厳/清談社)

松山ケンイチの「嫁」発言

 議論の対象になりやすいのが多くの人に注目される芸能人の発言だ。

 いったん「炎上」してしまうと、発言が妥当かどうかは置き去りにされ、「問題視された」ことじたいがネガティブな注目を集めてしまうことになる。

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 俳優・松山ケンイチの「嫁」発言をめぐる騒動も記憶に新しいところ。これは松山がバラエティ番組『火曜サプライズ』に出演した際、「髪が伸びた時には自分で切ったり、嫁に切ってもらっている」と発言したところ、SNS上で「嫁という間違った言葉を広めないでもらいたい」「嫁という発言はまずかった」という批判の声が投稿された。

松山ケンイチ ©文藝春秋

「嫁」という言葉は、家事は女性がするものという風潮を肯定する言葉であり、同様に、男性に対する「旦那」「主人」といった呼び方も好ましくないという指摘だ。

 これに対し、「何が悪いのか?」「言葉狩りだ」といった擁護の声も寄せられ、ネット上では批判派、擁護派、双方の意見が入り乱れTwitterのトレンド入りするほどの注目を集めた。

 一般的には知名度の低いタレントも、メディアで発信する限りポリティカル・コレクトネスへの配慮が求められるようになっている。

 今年1月、関西を中心に活動する女性アイドルグループ・たこやきレインボーの春名真依がYouTubeの生配信の中で、本来なら「魑魅魍魎(ちみもうりょう)」というところを、「えたひにん」と間違えて発言してしまった。この発言を受けて所属事務所は自主的に春名の活動自粛という判断を下している。

 前後の会話の流れを見ても、春名の発言は意図的な差別を意識したものではないことは明らかだが、意図にかかわらず、発言したこと自体が問題視されたケースだ。

 ただし、たとえ行き過ぎた発言があっても、その場でのツッコミなりフォローがあれば、そこまで問題視されないケースも多々ある。

 トーク番組『ボクらの時代』で、既婚者である千鳥・ノブが、妻に対して「1回、息抜きで『1日くらい友達と遊んでき』って日を与えたんですよ」と発言したことがあった。これに対し共演者の今田耕司はすかさず「今のもアカンで! 日を与えたって言い方が!」「もう全然分かってない!」と指摘。ノブが「休みを授けさせていただきました」と言い直してオチがついた。

 その後、ネット上の反応も今田への称賛が大半を占め、ノブへの批判はほとんど見られなかった。