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「自分とは無縁の職業と思っていました」 黒柳徹子が女優になり、NY留学を決意した理由

「自分とは無縁の職業と思っていました」 黒柳徹子が女優になり、NY留学を決意した理由

『チャックより愛をこめて』より#1

2021/05/03

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書, 国際, 芸能

note

【B】  ベッド

 ベッドといっても、いまはやりの×××シーンとかいうものではなく正真正銘の寝床のことであります。小さい部屋とはいっても、アパート難のニューヨークの、しかも、こんな街の真中に見つけられたということは奇跡に近いのです。でも何故か、家具なしなのであります。そこで、なにはさておいてもベッドを手に入れなきゃ、と早速行動を開始しました。

「こんな趣味の悪い家具にかこまれて一年も暮すの?」

 くわしい人に聞いたら「どうせ来年、日本に帰るのなら、上等のを買ってもつまらないから、貸し家具屋がいいんじゃない?」「へーえ、貸し家具屋か!」と感心しながら、そういう店に行ってみると、なるほど、ザーッと家具が並んでいます。ベッドも、シングル、ダブル、ソファーベッドに、ベッド兼用長椅子と、よりどりみどり。ところがよく見るとどれも新品なのですが、そのデザインというのが、どれも安物をなんとなく高く見せている、といった趣味の悪さがチラリとうかがえ、どうも感心しない、という代物(しろもの)。それにしても、いったい、いくらくらいで借りられるのだろうか……。

ニューヨークにある小道具屋での写真

 ネクタイをきちんとしめ、愛想はいいけど、どこか気の許せない小父さんが、シングルベッドをなでながらいう。「一カ月、十ドルで結構。もし買うなら即売もしてますよ。百八十ドル……」。「なるほど」と私はバッグから、小さい手帳と鉛筆をとり出す。知らない土地に一年もいようというのだから、態度もおのずとしっかりしてきて、ちゃんと計算してみようというわけです。「えーと、買えば五万九千円。借りれば月に三千三百円。一年で三万九千円か……」。でもこれだけじゃ足りないから、あと椅子にテーブルにじゅうたんに……なんていうと、最小限でも、月に七十ドル、一年で二十八万円。「えっ! ただ借りるだけで? しかも、こんな趣味の悪い家具にかこまれて一年も暮すの? こりゃいやだ!」と、私は「貸し家具屋? へーえ」と感心したことも忘れて、早々に店をとび出しました。

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 ほかの店もだいたい似たりよったり。さりとて、趣味のいい家具を新品の店屋で買うとなったら、ロックフェラーか、オナシスでも探さなきゃ。