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「国は企業も個人も助けない」 コロナ禍で休業を決めた「高太郎」のシェフが語る“就職氷河期世代”の生き方

『シェフたちのコロナ禍 道なき道をゆく三十四人の記録』より#前編

2021/05/13

source : 文藝出版局

genre : エンタメ, グルメ, 社会, 働き方, 読書

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「この2週間、どう過ごすかで将来が変わってくる」

 休みに入る前、3人のスタッフたちには「いつか必ず終わる」と伝えました。また、「この2週間、どう過ごすかで将来が変わってくる」とも。朝、いつもの時間に起きて、運動して、自分の時間を持つ。そこでスマホを見て過ごすのか、本を読んだり、何かを学んで過ごすのか。

 飲食業で、2週間の休みなんてなかなかないことです。お盆休みも1週間くらいですし……少なくとも僕は料理人になってから、独立前の準備期間以外では初めてです。

 だからこの休業は、自分の受け取り方によってはすごく貴重な時間にできるよ、と雑談を交えて、空気を上へ持っていくように話しました。あとで訊いたら、休業中、彼らは調理師や心理カウンセラー、ソムリエなど資格取得の勉強をしていたとか。それぞれ有意義に過ごしたみたいです。

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※写真はイメージです    ©iStock.com

 2週間って、できることが本当にたくさんあります。

 僕は数人の経営者に会って、コロナの影響や従業員への対応、この困難をどう乗り越えようとしているのか、コロナ以後の社会をどう見ているのか、といった生の声を聞いて歩きました。菓子メーカー、金融関係、投資家など、飲食業とは違う分野の人たちです。いろいろな声を聞きながら、経営者として自分がどうすべきかを探っていたんです。

 あとは読書。経済や飲食、漁業や農業など一次産業の本です。とくに海の環境、生態系、資源の問題はじっくり勉強したかった。「高太郎」では九州や東北から魚介を取り寄せていて、海の変化や危機についても現地からよく聞いていたので。