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大好きだった男にカネと引き換えに売られた

 当時17才だったメグミは、中学生時代から暴走族と付き合いがある、いわゆるヤンキーだった。父親が家を出て行き、母親が新しい男を連れ込み、そしてその男がメグミにまで手を出してきた。そんな壮絶な家庭環境のなか、テレクラ売春や窃盗でカネを作り、クスリの味を覚え、警察のお世話にもなっていたという。グレた青春時代を送っていたようだ。

売春婦たちが暮らしたアパート(著者提供)

 そんなおり、17才の春、メグミは武井と出会った。サザンの桑田に似たヤサ男。無職だがタイプな武井に、ひと目で母性本能をくすぐられた。

 一緒にいるだけで安らぎを覚えた武井との青春は、3ヶ月後、激しい憎悪へと変わった。大好きだった男に、カネと引き換えに売られたのだ。

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 来る日も来る日も男に買われる日々。追いつめられたメグミは、前述のように、ついに島からの脱出を決行したのである。着の身着のまま旅館を抜け出し、客引きのオッサンの前を平然を装い素通りし、あらかじめ探していた人気のないポイントへ。決死の覚悟で海に飛び込んだのだ。

女将さんから本当の親のような愛情に触れて……

置屋のあった島の路地裏(著者提供)

 メグミの告白から想起されるのは、凶暴凶悪なこの島の内情だ。彼氏に騙され、ホストに売られ……魑魅魍魎たちが蠢く実態が浮かび上がる。

 女を口八丁手八丁で島へと誘い、カネと引き換えに売り飛ばす。待っているのは軟禁状態で宴会に駆り出され、オヤジたち相手にカラダを売る日々。借金が終わるまでは島の外には絶対に出られない。

 しかし、幼い頃から親との軋轢に悩まされていたメグミは、女将さんのことを「本当のお母さんのような存在になりつつあった」と言った。島に来て1ヶ月ほど経った8月7日、メグミは18才の誕生日を迎えた。女将さんはショートケーキとプレゼントの指輪で細やかにお祝いしてくれた。友達にも、親にも祝ってもらったことなど久しくなかったのに。単純に嬉しかったメグミは、このときばかりは「ここにいるのも悪くないな」と真剣に考えたという。

置屋の内部。ここで売春婦たちが斡旋されていた(著者提供)

 しかも、女将さんから本当の親のような愛情に触れたメグミは、脱走劇を演じたにも拘らず数年後、自ら女将さんに電話をかけ、「メグミちゃん、元気? 最近不景気で困っているのよ。いつでも戻ってきていいから」と再び優しさに触れると、またあの海を「渡ってしまうかもしれない」と思ったと吐露している。

 この告白からは、死ぬ想いをしてまで泳いで逃げた一方、この島で過ごした日々への愛着も捨てきれずにいた複雑な想いが伝わってくる。確かに騙されてこの島に来たが、住めば都ということか。恨み辛みは武井に向けられているだけで、女将さんや“売春島”に対してのものではないのだ。