「ヤバい島」として長くタブー視されてきた三重県の離島・渡鹿野島。今も公然と売春が行われ“売春島”と呼ばれているこの島の実態に迫ったノンフィクションライター、高木瑞穂氏の著書『売春島 「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ』(彩図社)が、単行本、文庫版合わせて9万部を超えるベストセラーになっている。
現地を徹底取材し、夜ごと体を売る女性たち、裏で糸を引く暴力団関係者、往時のにぎわいを知る島民ら、数多の当事者を訪ね歩き、謎に満ちた「現代の桃源郷」の姿を浮かび上がらせたノンフィクションから、一部を抜粋して転載する。
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稼業の人間の専売特許になっていた
「Xさん、だから今日はその逮捕された経緯なども詳しく聞かせてほしいのです。その前に、まず、Xさんが島に入れた30人以上の女は、すべて一人で入れたのですか」
「ぜんぶ、俺。もちろん若い衆にも手伝わせたけど、スカウトとか紹介とかは一切使ってない。手口? 簡単に言えば、“色管理”かな。ナンパして、惚れさせて『俺のために働いてくれ』と諭して。
ほとんどは家出少女、というか家出をさせたコだね。まあハタチ超えてたら家を出させてもいいでしょう」
「あの島はヤクザが絡んでいるし、逃げたりしたら後処理ができないから基本、スカウトは関わらない、と聞いています」
「そうだと思うわ。だから俺らのような稼業(ヤクザ)の人間の専売特許になっていたと思うわ。当時は島が潤っていたから、バンス(前借り金)を200万出して、たとえ逃げても問題にならなかった。女のコも稼げるし、店もそれ以上に稼げたから。
また島から出るにも、島で長く売春婦をしているチーママ的な女のコの付き添いが必要だった。俺が送り込んだクミ(仮名)という女がいて、そのクミが1年ほど働きチーママになった。クミの株が上がることで、俺にも信用ができて、置屋に直接オンナを入れられるようになった。当初は兄貴分を通してたんだけど、バンスを何割か抜かれたりしたので、お礼の意味で1割は渡したにせよ、そういう思考になったんだ。
稼いだカネ? 億はいってないくらいだね。俺は当時、1人200万と計算していた。それが30人以上だから、7000万ほど。後は働いて貯めたお金を振り込ませたり、働くなかから再バンスでさらに200万、用意させて。クミとか長く(半年以上)働いていた2~3人は、まだ完済してなくても追加で前借り(バンス)できたんだ。多分、50万を切るとまた前借りさせてくれるシステムだったと思う」