「ヤバい島」として長くタブー視されてきた三重県の離島・渡鹿野島。今も公然と売春が行われ“売春島”と呼ばれているこの島の実態に迫ったノンフィクションライター、高木瑞穂氏の著書『売春島 「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ』(彩図社)が、単行本、文庫版合わせて9万部を超えるベストセラーになっている。
現地を徹底取材し、夜ごと体を売る女性たち、裏で糸を引く暴力団関係者、往時のにぎわいを知る島民ら、数多の当事者を訪ね歩き、謎に満ちた「現代の桃源郷」の姿を浮かび上がらせたノンフィクションから、一部を抜粋して転載する。
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島の住民に直談判して話を聞くしかない
帽子が飛ばされるほど強く、そして寒い潮風が吹いていた。その風は、荒廃したこの島の現状を際立たせるかのごとく、渡し船から降りる数少ない乗客たちの背中を宿へと押していた。
とりあえず、僕は調べた資料を持って、ふたたび“売春島”へ舞い戻っていた。2017年2月の中頃のことだ。
実は、佐津間さんに寒川さんら元置屋経営者など関係者を紹介して欲しいとお願いしていて、待つことも考えたが、いまだ色よい返事はもらえていない。
そのルートが途切れつつある以上、島の住民に直談判して話を聞くしかない。芥川さん、“Kさんの嫁”……これまで知り得た名前をぶつけてみて、彼らの素性を聞いてみよう。知り得た情報を元に、島の歴史を辿ってみよう。部外者への軋轢が囁かれるこの島だが、案外受け入れてくれるやもしれない。首尾よくことが運べば良いのだが……。
島の内情をあけっぴろげに語る女将
ある旅館に宿泊した僕は、旅路を癒すかのごとく熱い日本茶で出迎えてくれた女将との間合いをはかりつつ、取材を試みた。もちろん、宿泊客には無下な扱いはしないだろうとの計算もあった。
「女将さん、いま置屋は何軒くらいあるのですか?」
「置屋はねぇ、いま2軒です。1軒はスナックで、もう1軒はお店を構えてなくて」