計算通り、女将は島の内情をあけっぴろげてくれた。そして4年前と8年前にも一度、この島を訪れていることを告げると、女将が言う。
「もう3年くらい前からそんな状況ですね。でも8年前ならもう少しありましたよね。
置屋は年々、少なくなっています。ウチはここに女のコを呼んで顔見せして選んでもらうのですけど。人数はその日の置屋さんの状況次第ですね。2人くるのか、3人くるのか。もちろんお客さん自身で置屋さんに見に行ってもらっても大丈夫ですし」
この島で生まれた女将なら内情を知っているに違いない。まだ若い女将が適任じゃなかったとしても両親や親戚筋には必ず詳しい人物がいるはずだ。
「歴史……。フーゾク的なことではなくて?」
ここまで話を聞いたところで、僕は身分を隠すことをやめた。差し出された宿台帳の職業欄に「フリーライター」と記入し、それを女将に渡して単刀直入に聞いた。
「女将さん、それにも書いたように実は僕、取材記者なのです。今日は島の歴史を調べる目的で来たのです」
みるみる女将の顔色が変わった。外敵を前にしたように口元を強ばらせ、でも客である以上は無下にはできないといった感じで、先程より低いトーンの声で言う。
「歴史……。フーゾク的なことではなくて?」
女将からは、明らかに警戒心が滲み出ていた。
「江戸時代から続くこの島の歴史を一冊の本にまとめたいのです。もちろん奇麗ごとだけじゃなく売春のことも書くつもりです。置屋が増えたのは、四国や九州など島民以外の人たちが移り住んで発展させた背景があると聞いて、その事情に詳しい方を探しているのです。2000年頃からの行政による観光地化の流れと、それについての島民たちの本音も知りたいのです」
僕は女将の警戒心を解くため、必死でそう訴えた。もちろん取材趣旨には売春のことも含まれているため、あっさり断られても不思議でない。女将の話によれば、この旅館でも置屋から女のコを呼べるという。つまりこの旅館は、売春のパイプ役として機能しているのである。取材内容に、売春のことが含まれるとしたらそれは、できれば隠したいことに違いない。僕が外敵と分かった以上、たとえ客だとしても協力したくないに違いない。
が、女将の反応は意外なものだった。