「そりゃ嫌じゃないですか、思春期の頃は」
「ちょっと私じゃ説明できないと思うのでぇ……あのね、この島の行政に携わっている親戚の“叔父さん”なら詳しいと思うんですけど。その“叔父さん”はね、この島で生まれ育っているから何でも知っているんですけど……。ただね、フーゾク的な質問ばかりの取材は断ると思うんですよ。島の歴史も……ですよね?」
売春の話だけでないとすれば、その“叔父さん”に取り次いでくれるという。取材を受ける、受けないは別として。そこで、僕は、江戸時代から続く歴史や行政による観光地化の近代史も知りたいと念を押した。そして、話せないことは話せないでいい。もちろん立場的に名前や肩書きを明かせないなら匿名でもいい、と。
とにかく、島の歴史につながる話を、何でもいいから聞き出すしかない。その情報をもとに、新たな関係者を探し出して点と点を結んでいく作業をするしかない。そんな気持ちで懇願した。
女将の境遇も知りたくなった僕は、こうして売春島で商売をしている本心を尋ねた。
「私と旦那は、純粋にここで生まれ育って、恋愛して結婚したってだけで。でも、ここが“売春島”ってことは、いつからか分かりますよね。それが嫌で私は、高校生になって一旦、島を出ました。だけど、まあ、ここが実家ですから、出戻って結婚して旅館を継ぎました」
「なぜ嫌になったのですか?」
「そりゃ嫌じゃないですか、思春期の頃はそういう(売春)島っていうだけで」
島の歴史を熟知している“叔父さん”
「四国や九州から移り住んだ方たちの素性は知りませんか?」
「みんな置屋をするために来たと聞いています。でも私が生まれる前のことなので詳しくは知りません。やっぱり、そういうフーゾク的なことが知りたいのですね。すいません、もういいですか」
女将は、そう僕の質問を遮り、ふたたび表情を強ばらせた。口では歴史や行政の動きを知りたいと言っていても、やっぱり売春のことを知りたいだけなのだといったあきれ顔だった。