今も公然と売春が行われ“売春島”と呼ばれている三重県の離島・渡鹿野島――。「ヤバい島」として長くタブー視されてきたこの島の実態に迫ったノンフィクションライター、高木瑞穂氏の著書『売春島 「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ』(彩図社)が、単行本、文庫版合わせて9万部を超えるベストセラーになっている。
現地を徹底取材し、夜ごと体を売る女性たち、裏で糸を引く暴力団関係者、往時のにぎわいを知る島民ら、数多の当事者を訪ね歩き、謎に満ちた「現代の桃源郷」の姿を浮かび上がらせたノンフィクションから、一部を抜粋して転載する。
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“売春島”で人身売買をしていた元ブローカー
どうして僕がこの“売春島”に魅せられたのか、そして表も裏も歴史や内情を紐解き一冊の本にするまでに至ったのか。
その昔、といっても約8年前(取材時)、僕はある週刊誌の取材で初めて、この“売春島”を訪れた。
体験ルポの体裁で、“売春島”の実態を潜入取材する。そこで見たものは、置屋はもちろんホテル、旅館、客引き、飲食店などでも女のコを紹介、斡旋してくれセックスできるが、一方で桃源郷と呼ぶにはほど遠い、寂れたこの島の実態だった。そして、“売春島”の今を定点観測できただけで満足し、先人たちと同様にヤバい島だと書き記すだけで、あくまで興味本位に過ぎなかったのである。まだ、この時は。
その後、僕は一人の男と出会った。フリーライターという職業柄、新たなネタを探していた。そのなかで、件の“売春島”で人身売買をしていた元ブローカーに話を聞くチャンスが降ってきた。
それが、後述するX氏である。僕は、別の週刊誌に『元人身売買ブローカーが明かす「伝説の売春島」の真実』というセンセーショナルなタイトルで、Xが体験した“売春島”の内幕記事を書いた。
これまで闇に埋もれていたこの島の暗部を浮き彫りにするX氏の証言に、僕は大きな衝撃を覚えた。それ以来、「もっとこの島のことを知りたい、探りたい」という取材者としてのエゴが沸々とした。