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ヘルスで働く27才のシャブ中毒女性のケース

 手っ取り早く債権を回収するため、女は女衒に売り飛ばす。もちろん、全ての闇金が同じ手法ではないだろうが、少なくとも西条の回りでは20人の女が島流しされたという。

「ヘルスで働く27才のシャブ中毒女には、ト5(10日で5割の利息)で10万貸しました。1回目の利息は返済したものの、2回目で飛んだ。だからその女を新宿で捕まえるとすぐに、女衒に50万で買い取ってもらいました。22才、ホスト狂いのソープ嬢は元金が50万だったので、少々高めの90万で買い取ってもらうことに。そういえば、1人AV女優もいた。素性を覚えているのはこの3人だけですね。

島の港の様子(著者提供)

 ガラを抑えたら、すぐに女衒を呼ぶんです。『私、どうされるんですか……』。女たちはそう不安を口にしました。もちろんビビらせてもしょうがないので、『働いてもらうだけだよ』と、優しく諭す。『嫌だ』と拒むコもいるけど、『ならお金返して』と返せば、ぐうの音も出ない。結局、お金が作れなくてこうなってるんですから。

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 でも、そうした人身売買で一番恐ろしいのはやはり、臓器売買ですよ。老若男女問わず、医者の診断で致命的な疾患がなければ誰でもカネになる。借金の額にもよりますが、通常は肝臓、腎臓など。それらでも50万は下らなかった。売ったことはないけど、眼球なら数千万で買ってくれるらしい。リスクは負いたくないから、その先にどんなシンジケートがあるか知らないし、知りたくもない。ウチとしては最悪、元本が回収できればいいわけで。だから、売春島に売られるなんて甘い方だと思います。10万の元金から、最終的に3億の自社ビルを奪ったこともありますからね」

 臓器売買の話に身を縮ませながら、聞いた。

「どんなルートで、女衒は島に送るのでしょう。仮に女衒がヤクザだとして、やはり、さらに身分が上のヤクザに引き渡し、その兄貴分が置屋と繋がっているのでしょうか」

置屋以外にも居酒屋やカラオケスナックなどがあった(2003年、著者提供)

 僕は、女衒がどんなルートで“売春島”に売り飛ばすかを知りたかった。これこそが、売春島の全容を知る手がかりになると思ったからだ。

「『“売春島”に連れて行くんだよ』と、聞いたまでですね。女とウチの借用書、それまで知り得た女のデータなどと引き換えに、女衒から現金を受け取れば、それでおしまい。後のことは知らぬ、存ぜぬです」

 西条は、できればそれ以上は関わりたくない、だから知りたくもなかった、といった調子で天を仰いだ。

どんな組織が“売春島”を仕切っているのか

 余計な詮索は身を滅ぼしかねない。こうしてヤクザが暗躍し、人身売買のルートが確立されていた90年代後半の“売春島”は、カネに塗れた悪党の彼であってもアンタッチャブルな存在だったということだろう。

 しかし、だからといって立ち止まるわけにもいくまい。2人の話を聞いたが故に、新たな取材への道が見えてきたのである。

 果たして女衒とはどんな人物なのか。その先にはヤクザが暗躍しているのか。過去の摘発事例からすれば、女衒から何から暴力団組織の仕事なのかもしれない。だとしたら、どんな組織が“売春島”を仕切っているのか――。

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売春島~「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ~

高木 瑞穂

彩図社

2019年12月17日 発売