「5人ほど売り飛ばしましたよ」
こうして階層形式の人身売買ルートが確立されている裏には、何があるのか。それを辿るため、さらに僕が方々の知人を頼った末に「彼なら知ってるかも」と紹介されたのは、元闇金業者の西条司(仮名)だった。
1990年代後半、西条は、ある巨大闇金グループの幹部として鳴らしていた。金利はト5(10日で5割の利息)。この暴利から分かるように、フツーの金融屋が相手にしない、もう何処からも借りられない人間たちから、身包みを剥ぐ仕事である。数多の部下を抱えるなど頭角を現し、月2000万もの給与を手にした西条は、いつしか善悪の区別もなくなり、悪事を働く対価で得たカネで我が世の春を謳歌したという。
何気ない日常だったかのように、そう淡々と話した彼の経歴を一通り聞いた後、僕が売春島の取材をしていることを告げると、彼は「ああ、三重のあそこね」と、語調も変えず続けた。
「5人ほど売り飛ばしましたよ」
あまりのタイミングのよさに驚いた。
「新規開拓のため、名簿屋から風俗嬢の債務者や滞納者リストを手に入れ、無作為にDM(ダイレクトメール)を送りつけてカネを貸していた時期がありました。でも女は、特に風俗嬢はよく焦げ付くんですよ。困ってウチの会長に相談したところ、『ガラ(カラダ)だけ抑えればカネにしてくれるよ』と、女衒を紹介されたんですよね。
その女衒は最後まで素性は明かしませんでしたが、おそらく稼業の人間(ヤクザ)だと思います。男ならゲイビデオに出演させる、女ならソープで働かせるなどして返済させます。
でも、ウチの債務から逃げた人間を捕まえてカネにしようと思っても、ゲイビデオやソープだとまた逃げる可能性があるので、島に売り飛ばす他に方法がなかった。ソープの場合は債務者だと飛ぶ可能性があるからバンスが出ません。
だから、基本は自らソープに働きに行かせ、稼いだカネから定期的に返済させるんですが、あくまでそう仕向けるだけで。たかだか20~30万の債務で軟禁しながら働かせて訴えられたりしたら、身も蓋もありません。なら、ガラ(身体)だけ抑えて売り飛ばした方がラクだから。興味本位で沈める場所を聞けば、三重の“売春島”でした」