“小屋に潜む者”からのメッセージ
朝から雨が降っていたその日も、小屋へと至る廃れた道を走っていると、道中に木が倒れていた。車から降りて倒木を除けようとした時、ふと木の根元を見ると、ナタでバッサリと切り落とされていることに気付いた。木が自然に倒れたのではなく、何者かが切り倒して、道を塞いだのだ。誰がこの木を切り倒したのか――その理由も含めて、安易に想像がついた。“小屋に潜む者”からの「ここに来るな!」というメッセージだ。
このまま進んで、もしも当人と鉢合わせしたら……。そう考えると、躊躇せざるを得なかった。しかし、好奇心には勝てなかった。せっかくここまで来たんだから、少しだけでも……。そんな思いで先を急ぐと、小屋の前には、真新しい飲みかけのペットボトルが放置されていた。
恐る恐る小屋を覗きこむと、やはり切れ端は更新されている。しかし、背後が気になって、気が気ではない。こうしている間にも、いつ“彼”が現れるとも限らない。しかも、その人物はナタを所持しているのだ。数分で早々に切り上げて車に戻ると、暑くないのに大量の汗をかいていた。
ついに彼と遭遇する日がやってきた
小屋の観察をはじめて数年が経った頃、私はそこで見た光景を自分のホームページで紹介するようになった。観察開始から4年も経つと、探索仲間が何人かでき、回数を重ねるうちに様々なことが分かってきた。雑誌の切れ端は小屋だけに留まらず、付近の山林数か所において広域的に観察されること。また、切れ端とともに惣菜類のゴミや空き缶、スポーツ新聞等も捨てられていること。
それらの残留物から、彼の嗜好や訪問月日を推測し、私たちは勝手に人物像を想像していた。そして、ついに彼と遭遇する日がやってきた。
その日、探索仲間と一緒に現地を訪れると、小屋の横に1台のセダンがとまっていた。これは、ひょっとして、彼かもしれない。はやる気持ちを抑えて遠巻きに観察すると、彼はまさにハサミを使って、車の中でエロ本を切り刻んでいた。いや、切り刻むという表現は適切ではなかった。切り取っていた。だが、丁寧に切り取るわりに、切った後には興味がないらしく、そのまま小屋や山中に捨てていたのだ。
その日を境に、私たちは何度も彼と遭遇することになった。はじめのうちは、彼は私たちのことが視界に入っても完全に無視を決め込んでいたが、何度も顔を合わせるうちに、次第に言葉を交わせるようになった。